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旅する手紙

僕は旅先から手紙を書いて送るのが好きだ。海外旅行での話である。つまりエアメールのことだ。

ここ数年海外に住んだり旅行することが多く、たまにエアメールを日本にいる友人や家族に送った。ポストカードを探すのも楽しいし、どんなことを書くか考えるのも楽しい。汚い字で書かれた下手な文章は、我ながら味が出ていると思う。


今回のパンデミックによって中断させられた世界旅行では、訪れた国から一枚は送るようにしていた。友人に送ることもあったが、両親宛に送ることが多かった。海外旅行などに馴染みのない両親は、異国から届くエアメールを楽しみにしているようだった。観光するよりもポストカードを探し回ることを優先することもあった。場所によってはなかなかいいものが見つからず、一日中街中を探しまわった。

パキスタンではなかなかいいポストカードを見つけられず、結局お土産屋さんの外に風雨さらされバリバリになったものを一枚買うことにした。すると店の人にはお金はいらないと言われた。そのポストカードは実家に届いた時には切手もはがれ、文章の文字も判別できなかったようだ。それでもよく届いたものだ。

エアメールを送って数週間すると、母から「届いた」と連絡が来た。僕はすでに他の国にいた。後から送ったエアメールが前に送ったものより先に届くこともあった。はっきり言ってどんな文章を書いかあまり覚えていないことが多かった。しかしこの時間差がいい。


もう何年も前のことだが、僕がアフリカから手紙を送った時の話だ。年末に年賀状として何人かの友人にエアメールを送った。僕がいたのは南半球で、年末感のない真っ青な海の写真のポストカードだった。そして僕は年明けに帰国し、日本で新しい生活を始めた。特にそのエアメールが届いたかどうかなんて気にしていなかった。

夏になった時、友人から連絡が来た。エアメールが届いた、と。どうやら僕が年末に送った年賀状が、半年後の夏に届いたというのだ。そしてエアメールには「MISSENT TO INDIA」というスタンプが押されていたという。要するに「インドに誤送」されたのだ。そのことをFacebookに投稿すると、他の友人も同じように最近エアメールが届いたと連絡をくれた。

一体半年間どこにいたのだろうか?インド国内をさまよっていたのだろうか?僕は赤字で「AIRMAIL TO JAPAN」と書いていた。それ以外は日本語だった。中国ならまだしも、インドとは。僕がインドにハマったように、手紙もインドにハマったのだろうか。しかしよくインドを抜け出せたものだ。

時間と場所のギャップが大きければ大きいほどいろんな想像が膨らむ。インターネットが発達し瞬時にメッセージが届く時代に、こんなこと手紙しか成し得ない。


世界旅行をしていた時に送った数枚のエアメールが数ヶ月たった今でも届いていないようだ。このパンデミックが起こり始めた頃だったので、おそらくこの騒動に巻き込まれたに違いない。きっと今もどこかを旅しているのだろう。

しかし届くか届かないは五分五分だ、みたいな感じはギャンブルのようでおもしろい。大した金額でもないし、大した内容でもない(でも僕は書いたエアメールの写真を撮るようにしているが)。


早く自由に国外を旅できる日が戻って欲しいと思う。


次はどこからどんな手紙を書くのだろうか。



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