TheBazaarExpress102、『ゴーストライター論』~あとがき

チームライティングの視点

著者の戸惑い

「私の著書が出版された時、神山さんにはその設計図を見せていただきました。それは嬉しかったです」

 本書にも書いた、三重県の障害者アーティストのアトリエを主宰している画家から手紙をいただいたのは、2014年、佐村河内事件報道の中で「ゴーストライター問題」がひとしきり喧伝されたあとのことだった。

 騒動に翻弄された私の身辺が落ち着くのを見計らうように、画家は温かい言葉を連ねてくれた。だがそこには、私にはそれまで考えたことのない内容が書かれていた。

 手紙はこう続く。

「綿密な神経の行き届いた設計図に沿って、保護者、関係者の周辺取材を目にして、この仕事の仕方は職人の仕事でゴーストライターではない―――そう思ったのです。

 では何なのか?

 私には神山さんの仕事の仕方が、建築設計事務所と同じように感じました。神山書籍設計事務所のイメージです。家を建てるときも、私たちは××建築設計事務所の建てた家を見て、それが素敵だと思ったらその事務所にお願いしたいと思います。それと同じように、私は神山建築設計事務所に書籍の設計を頼んだのです。

 では、出版社との違いは何か―――

 出版社は綿密に打ち合わせを重ねて、神山書籍設計事務所に本の設計建築を発注した建設会社(元請け)の様なものでしょうか。

 著書が出版されたあと、多くの方からこう言われました。

―――ともいい本だけど、ご自身で書いたのですか?

 そう言われて困りました。

 出版社の企画で、神山設計事務所が設計図をつくり、それに沿って取材編集が進められて本になりました―――、このような本づくりのイメージが出版の形として定着していたら、多くの読者は黙って納得するのだろうと思いました。

―――私の家は帝国ホテルを設計したライトの事務所の設計なの。

―――あら、この文体綺麗だわ。××設計事務所なら間違いないわよ。あなたも××設計事務所にお願いしたら。

 そんな会話が「ゴーストライター文化論」の未来形だと思いました」

 書籍設計事務所か。それは新しい発想だと思った。

 そうであるとするなら、ライターは設計士、デザイナーということになる。本書でも書いてきたように、著者にも思いもつかないような書籍を生み出すためのデザイナーとしての役割は確かにあると思える。

 同時に私たちライターは、初めて自分の著書を持った人たちが「自分で書いたの?」と質問を受けて戸惑う場面は、あまり気にしていなかったことにも今更ながら気づいた。

ここから先は

4,387字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?