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仕事の義務と責任を超えて、自発的に学び、ネットワークを広げたりして企業に貢献する行動を何と呼ぶ?|59冊目『組織市民行動』

デニス・オーガン フィリップ・ポザコフ スコット・マッケンジー(2007,  白桃書房)



いったん落ち着こう、仮説の整理

僕が書いた論文に対して、かなり手厳しい評価をいただいてしまいました。
企業のビジョンやミッションよりも、これからの時代は個人のビジョンやミッションの方が重要なのでは?と思ったことが研究のきっかけで、「企業のビジョン・ミッションと個人のビジョン・ミッションのどちらを大切にする方が、成果を期待できるポジティブな企業文化の醸成につながるのか?」をリサーチクエスチョンとして調査をしていったのですが、そもそものリサーチクエスチョンのブラッシュアップが足りなくて、その調査の内容がリサーチクエスチョンに対してふさわしいものになっていないと指摘されてしまったのです。

さらには、ビジョンなのか?モチベーションなのか?企業文化なのか?エンゲージメントなのか?あなたの研究の立ち位置はどこにあるのかと問われてしまいました。

僕は研究を進めていて、本や論文を読んで興味を持つとすぐにそれに影響されてしまいます。
そのため、指摘されたように専門が定められず、あちこちに飛んで、表面的に理論を拾い集めた浅薄な研究になってしまったことは、その通りだなと反省しています。
論文は文字数に制限があるので、しっかり立ち位置を決めないとですね。

現在は、個人が自分自身のビジョンを実現させようとすることが、企業の中での業務の範囲を超えた主体的な行動、すなわち、個人的な関心による業務の拡張、自主的な学習や人脈作り、コミュニティ活動へとつながり、そしてそれが結果的に企業の文化に良い影響を与えて、企業の業績アップにつながるのではないか?という仮説を持っており、それは「組織市民行動」や「役割外行動」と言われているものではないかと考えています。
そのため「組織市民行動」にとても興味があるのですが、いつものように飛びついてしまうと、さらに研究の方向性を見失ってしまいそうなので、まずはこれまでの学びをいったん整理してみたいと思いました。


研究内容の整理

企業のミッションやパーパス、ビジョンと従業員個人の企業への共感、コミットメント。
そしてパーソナリティ、アイデンティティ、自己効力感が加わって個人のビジョンが描かれ、行動を引き起こします。
そうした構成要素によって企業の文化が醸成され、業績や成果に影響を与えると僕は考えています。

業績や成果から測定可能な指標を選んで従属変数として、左側の企業文化を構成する要素の中から「企業のビジョン」や「モチベーション」「エンゲージメント」辺りのいずれかを選んで、それらとの関係を検証していけば分かりやすかったのかも知れませんが、企業と個人それぞれのビジョンやミッションと、良し悪しを数値で測定できない「企業文化」そのものとの関係に焦点を当ててしまったので、仮説とその検証結果とがチグハグになってしまったのかも知れません。


組織市民行動(OCB)の定義と類似概念

「組織市民行動」が仮説の中でどこに位置し、何を知りたくて本を読むのかを、まずは整理しました。

その上で、本の内容に進みたいと思います。

組織市民行動(organizational citizenship behavior:OCB)の定義はこうです。

自由裁量的で、公式的な報酬体系では直接的ないし明示的には認識されないものであるが、それが集積することで組織の効率的および有効的機能を促進する個人的行動

因子分析によって導き出された関連の強い因子は、「援助(利他主義)」と「誠実性」です。

組織市民行動と類似する概念に「文脈的業績(CP)」、「向社会的組織行動(POB)」、「組織的自発行動」、「役割外行動(ERB)」などがあります。

いずれも利他的で、貢献的で、自発的なものですが、それらの行動のモチベーションが自ら描くビジョンにあるとは書かれていません。
「役割外行動」に至っては「組織に利益をもたらそうとするもので、かつ既存の役割期待を超えた行動」と定義されているので、その行動の動機は、個人のビジョンよりもむしろ企業のビジョンの実現のためにあるのかも知れません。

企業が掲げているビジョンとミッションとパーパスが言語化されたものを見比べたときに、明確に区別がされていないと判断したことから、僕の研究では「ミッション・ビジョン(MV)」と一括りにして区別しないことにしました。

しかし、あらためて個人のビジョン、ミッションについて、よく考えてみるならば、ビジョンとは目標でもあるので具体的であり、外発的なモチベーションを生じさせると言えると考えます。
一方、ミッションやパーパスはパーソナリティに影響され、アイデンティティや信念、自己効力感から生じるものであり、「できるからやる」「価値観に一致するからやる」というものであり、具体的な目標を求めるものではないので内発的な動機づけにつながるのではないかと思います。
そうだとすれば、ビジョンドリブンなのかミッションドリブンなのかで動機づけのあり方に違いがあるのではないかと思っていて、ビジョンとミッションとは実は区別するべきだったのかも知れないと今では考えています。

組織市民行動とそれに類似する概念の行動の多くは、目的や目論見が明確ではない「誠実性」「援助(利他主義)」といったパーソナリティ、アイデンティティからの内発的に動機づけられた行動と言えますが、「役割外行動」については「役割外」という業務の範囲を超える部分に焦点が当てられていて、その動機については「組織に利益をもたらそうとする」という目的が明示されているため外発的な動機づけである可能性が考えられます。


組織市民行動(OCB)を行わせる個人特性

もしも「組織市民行動を行う従業員が多い会社は業績が良い」ということを前提にするならば、次はどのように組織市民行動を増やしたら良いのかを考えたら良いわけです。

OCBにつながりやすい個人の特性としては、以下の要素があると言います。

・共感的感受性 empatic sensitivity
・達成欲求 need for a achievement
・親和欲求 need for a affiliation
・能動性 proactivity
・受動性 passivity
・忠実性 loyalty
・遠視性 farsightedness

「能動性」と「受動性」という対立する要素が両方あるということが面白いなと思います。
個人のビジョン実現を推進させる「能動性」と、企業のビジョンへの共感を促す「受動性」と考えてみました。

組織市民行動(OCB)を促進するリーダーシップ

ドライブがビジョンなのかミッションなのか、モチベーションは外発的なのか内発的なのかに言及している箇所を探し求めて読んでいたら、こんな記載がありました。

変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)
従業員の価値観、目標、願望を根本的に変革させて、彼らが、自分の行動が報いられるという期待から外発的に動機付けられるのではなく、その仕事を行うことが自分の価値観に一致したものであるからという理由から内発的に動機付けられるようにするもの

バーナード・バス(1985)

昨年の今頃は、『産学連携教育イノベーター育成プログラム』の受講によって、リーダーシップについて、「変革型リーダーシップ」「オーセンティック・リーダーシップ」「サーバント・リーダーシップ」「シェアド・リーダーシップ」の4つのタイプをがっつりと学んでいました。
しかし、OCBの文脈で変革型リーダーシップの定義を読むと、また新たな発見があり新鮮でした。

確かにOCBにおけるリーダーシップの影響は大きいだろうなと思います。


さてさて、どんな研究に向かいましょう

まずは前提として、OCBが盛んな企業は業績(売上、成長性など)が良い、あるいは従業員満足度が高く、離職率が低いといったことが言えるかどうかです。

もしもすでにそれが先行研究で立証されているのであれば、個人のビジョンとOCB、あるいは個人のミッション(パーパス)とOCBの関係、個人のビジョン(あるいはミッション)はOCBを促進させるのか?を調査する設計にしたいと考えています。

しかし、その前に、僕が注目している自発的な業務外の仕事や、学習、ネットワーキングを行う従業員の行動を、本当にOCBと理解して良いのかどうかを検証する必要があると思っています。

自分作成:企業の業績を高める雇用契約外の
個人的行動の考察

「OCB」「組織市民行動」をテーマに研究するなら以上のような感じかなと思っていますが、そもそも本当に組織市民行動がテーマで良いのかを含めて、もう少し論文や本を読んで、慎重に考えたいと思っています。

組織市民行動のグラレコ

最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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