Ⅳ 直接演劇

真に創造的な俳優は、初日には、これとは違った、そしてこれよりずっとひどい恐怖にとりつかれる。稽古の間中、彼は自分が演ずる人物の様々な面を探求してきたが、それらはどれも部分的で完全な真実とは言えないように感じられた。そこで彼は、誠実に探求を続ける者らしく、すべてを捨てて一からやり直すという手続きをあきることなく繰返すほかない。創造的な俳優とは、最後の稽古になっても、自分の役に対する硬直化した捉え方をいさぎよく捨てるような人間のことである。なぜなら、ここまで来ると、初日が近づいていることによって、彼が作り上げたものに鮮かな光が浴びせられ、それがどうにも不都合であることがわかるからだ。もちろん創造的な俳優といえども、これまでに自分が見出したあらゆるものにしがみつきたいとは思うし、何の準備もない裸の状態で観客の前に現われて傷つけられることは何としても避けようという気になる。だが実際にはそれを避けてはならない。彼はすでにつかんでいるものを捨て去らなければならない――たとえその後で拾い上げるものがほとんど変わりばえがしないとしても。

ピーター・ブルック『なにもない空間』晶文社、1971

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?