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色について「すみれ色」

 「かんざし、これいいね。」彼女はそう言ってすみれ色の和紙で出来たかんざしを手に取った。
「うん、先生に似合う。」僕は曖昧に返事をした。正直、高校生の僕にはかんざしの良し悪しなんてわからない。彼女が良いっていうから良いのだろう。そんなものだ。「今日はありがと、付き合ってくれて。」「いいの?彼氏さんに悪いんじゃないの?」「いいのよ、最後のデート。」「うん。もう最後だね。」「最後にさ、これ買って?」「うん。」
こうして彼女は学校を辞め、僕の街から出て行った。そして僕も、進学し、街を出た。
「ねえ、これいいね?」「ん?あー、かんざし。」「これって何色?」「すみれ色だね。」
何年かぶりに故郷の街であの時と同じような会話をしている。もう僕も大人だ。かんざしの良し悪しもわかる。「ねえ、これ買って?」「うーん、こっちの黄金色のほうが似合うと思うよ。」「わかった、ありがと。」 終

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