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孤高の薔薇

たまたま開いた画集の中に、懐かしい風景を見た。グスタフ・クリムトの「樹木の下の薔薇」。クリムトは好きな画家の一人で、その絵も何度も目にしていたはずだったのだが、突如感じたその「懐かしい」という感覚にしばし身を浸して、記憶の糸をたどる。

自転車のサドル近くで揺れるスカートの裾。心地よい春の風。朽ちかけた小屋の壁に枝を這わせる、赤い一重の蔓薔薇。それはかつて通った大学への通学路にあった景色だった。時間があってもなくても、だいたいその薔薇の前で自転車を止める。薔薇が散らないうちに目に焼き付けたかったのだ。まだ、画像を保存するケータイが普及する前だった。しばし眺めてその景色に浸り、また自転車を漕ぎ日常に戻る。私の毎日はおおよそそんなふうに、現実と空想が常に重なり合っていた。クリムトの絵でその薔薇を思い出したのは、異質なものの中に咲くその孤高さが同じだからだった。

大学生活ははじまったばかりで、授業はたいてい面白く、大好きなフランス語が毎日できるのが嬉しかった。みんなで海にでかけたり、女子同士でお泊まり会をしたり、いっぱしの大学生らしいこともしたが、何かとつるむことが多い他の友人たちに比べ、元来個人主義の私は、ひとりで行動することが圧倒的に多かった。

ひとりで街やキャンパスを歩くとき、よく出くわす先輩がいた。ほとんどの場合彼もひとりで、ものすごい早足でキャンパスを歩いていた。一匹狼同士、行動パターンが似ていたのだろう。大学の外でもよく出くわすので、ときどき会話を交わしたりついでにお茶をしたりしたが、寄り掛かり合うこともなくすぐにそれぞれの生活に戻った。どちらも孤独が好きなのだ。

凝り性の彼は身につけるものの色彩にこだわっていて、いつも美しくまとまっていた。私がどうしても上達しきれない英語とフランス語に苦戦している間に、そのもうひとりの一匹狼は、どちらもさらりと使いこなし、英語で立派な卒論を書いて、さっそうと卒業していった。早足で。

孤高のバラ、孤高の先輩。私も彼らのように誇り高く美しくありたいと、クリムトの薔薇を見て思いを馳せる。子どもを育てながら現実にまみれ、なかなか空想のパラレルワールドに浸ることは少なくなった最近の、久々のトリップであった。


ローズシロップのミルクゼリー

材料(3~4人分):
牛乳 300cc
砂糖 大さじ4
板ゼラチン 4.5g
ローズレッド(ティー用のドライローズ) 大さじ1と1/2
はちみつ 大さじ3
レモン汁 1/4個分

作り方:
1.板ゼラチンを5分程度水に浸す。牛乳に砂糖を溶かし、小鍋で沸騰寸前まで温める。水気を切った板ゼラチンを溶かし、型に流して冷蔵庫で2時間程度冷やす。

2.小鍋に水100ccを沸かし、ローズレッド、はちみつ、レモン汁を加え2,3分弱火で沸かして火を止め冷ます。

  1. 1を器に盛り、2をかける。

ポイント:
ローズは煮すぎると苦味が出るので、さっと煮るのがポイント。レモン汁を加えることで鮮やかなピンク色に仕上がる。


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