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柏の葉は「恩送り」の証 ペイ・フォワード記事Vol.17


福島を代表するおかし 柏屋薄皮饅頭

福島県のお土産といえば?多くの人が答えるのが「日本三大まんじゅう」として知られる柏屋薄皮饅頭。
昨日郡山市の高校でキャリア講演をした後、柏屋開成店に見学へ。実はこの企業は大きな流れの「恩送り」をしているのです。そのお話の前に、まずは柏屋さんがどんな店舗なのかをご紹介しましょう。

店舗入り口に 謎のスポット二連続

まず、店頭で目を引くのは真っ青なディスプレー。素敵な詩と絵が飾られています。

店頭の鮮やかな青いディスプレーに詩と絵

続いて見上げると、創業嘉永五年という柏屋さんの看板と、重厚な作りの入り口。そこには「萬寿神社へ徒歩20歩」の看板。え?店舗の中に神社があるの?
その謎を解きたい!と店内に進むと、次々にこだわりスポットが現れました。

鳥居のイメージの店舗へのアプローチ
饅頭やさんに神社?
奈良の「林神社」から日本で唯一ご分社いただいた萬寿神社

みんないっしょ、みんなかいてき

今でこそ珍しくなくなった「みんなのトイレ」。柏屋さんでは、公共施設は別として、一般企業でみんなのトイレを設置した県内最初の会社だそうです。

絵がかわいくて 優しい心持ちになれます

しかも、こんなに大きなみんなのトイレを二つも設置してくれているのです。これだけでもただのお菓子屋さんの店舗には思えません。このみんなのトイレのおかげで、年齢、性別、障がい関係なく、たくさんの人が憩いの場としてこのお菓子屋さんを利用することができます。

実際に、これまで「朝茶会」といって毎月朔日に無料のお茶会を開催し市民の方々が心の交流を深められてきました。

このように、ハード面(みんなのトイレもその一つ)とソフト面(朝茶会もその一つ)の両輪で、様々な人が安心して楽しめるお菓子屋さんを実現されてきました。

この道の先には、なんとギャラリーまで!?

そしてこの通路を抜けると、ついにあの部屋にたどり着くのです!

素晴らしい人間にではなく 人間の素晴らしさに出会う

店舗の奥に進むと、なんとギャラリーが。この部屋の名前は「青い窓 ポケットガーデン」。「青い窓」とは「子どもたちの素直で自由な心から生まれた詩で地域を明るくしたい」と昭和33年にけんちゃん、ようちゃん、ひろちゃん、みっちゃんの4人が始めた取り組み。

詩集『こどもの夢の青い空』の誕生秘話


大きなパネルのひろちゃんこと佐藤浩さんは、詩人であり詩集「青い窓」の詩の選者でもありました。会社の創業者を掲げるのではなく、「青い窓」を立ち上げたメンバーをパネルにしていることにもびっくりしましたが、私はパネルの言葉に釘付けになりました。

素晴らしい人間に出会うのではなく、人間の素晴らしさに出会う。
詩人 佐藤浩氏の言葉より

人の素晴らしさは肩書きではなく、人間は素晴らしい存在なんだなと思えるような出会いや姿勢が重要だと教えてくれるこの言葉。この言葉をギャラリーに大事に掲げる会社だからこそ、お饅頭を通して人が交流し、人間の素晴らしさを肌で感じるような場作りをしているのですね。このギャラリーには、柏屋さんの想いと歴史がぎゅっとつまっています。


ギャラリー奥の壁面いっぱいの佐藤氏が 笑顔で来館者を出迎える

子どもの詩は 子どもの眼で聴いた世界

ギャラリー「ポケットガーデン」に飾られているのは、小学生が直筆で書いた原稿用紙。パネルに誇らしげに収まっている原稿用紙には、ガラスでカバーされていません。これは、子どもたちが生む苦しみを乗り越えて作り出したこの詩の息づかいを、原稿用紙そのものから感じ取ってもらうための工夫です。

どんなに伸ばそうとしてもとれない原稿用紙のしわ。
ちょとくらい書き間違っても気にしない文字。
原稿用紙の使い方にとらわれずに自由に表現した文字の並び。
何度書き直したかわからない、消しゴムの消し跡。

原稿用紙をじっくりみると、単に詩を読むとは違うものが見えてきます。それがこの言葉「眼聴耳視(げんちょうじし)」の表すものかもしれません。

まだ目に見えない赤ちゃんと対話する おにいちゃんの眼

眼で聴き耳で視る 眼聴耳視(げんちょうじし)

眼で聴いて耳で視(み)なければ、本当に大切なことは見えないし、聴こえない。佐藤さんがラジオで出会った言葉です。このことから、「眼で見たら作文、眼で聴いたら詩。」という真理を導き出しました。だからこそ、先ほどの詩のディスプレーも、読み手にとって「眼で聴く」ことができるようにされているのでしょう。


事実を見つめる目 事実を捉える眼

以下のサイトから、これまでのこどもたちの詩を読むことができます。

隔月発行の青い窓 美しい絵が子どもの作品をより引き立てている

1852年から受け継がれる「革新」と「継続」

企業をかけての恩送り

ここまで饅頭やさんのイメージとは結びつかないような多種多様なユニークな活動を紹介してきました。いよいよ、これらが成り立つ経営理念、壮大な「恩送り」について迫っていきましょう。

五代目の会長は、31歳の若さで四代目から社長を譲られました。昭和61年の8月5日に起こった水害被害の直後のことです。「こんなに大変な状況を経験できるチャンスは二度とない。」という想いからだそうです。そして、五代目も六代目に昨年社長を譲りました。これもやはり、コロナの大変な時期から学びを得るため、ということなのです。

私にはこのことが企業をかけての恩送りと捉えました。会社を通して社会との関わり学びを得る。だから、今度はその経験を次の世代に託す。この姿勢は柏屋の屋号の由来でもある「ゆずり葉」と重なります。柏の葉は枯れたまま一冬ずっと枝についたまま。翌年に新芽を見届けると散っていく。次に繋いで去るという姿勢です。

本名会長の経営哲学は法人会のHPから読むことができます。

全国法人会総連合の冊子「ほうじん」No.719号の表紙を笑顔で飾る 五代目 本名会長

五代目が目指したのは『みんなのポケット』

柏屋の200もの家訓のひとつ「代々初代」。代々の当主が初代のつもりで事業にあたりなさいという教えに則り会長が掲げたのは「『みんなのポケット』のような会社でありたい」ということ。この発想の原点は、こどもの詩。

ポケット
小学三年 粟辻安子

お母さんの エプロンの
ポケットの中を見ると
ボタンやはんけち 小さなえんぴつ
ちり紙や ひももはいっている
そのほかにも まだはいっている
ポケットに手を入れて
いそがしそうに はたらいている
くしゃみをすると すぐちり紙を
出してくれる
妹のかおがきたないと
はんけちを出して かおをふく
お母さんだけのポケットではない
みんなの ポケットだ
粟辻安子「ポケット」(昭和46年6月 青い窓掲載)


本名会長はこの詩に出てくる「みんなのポケット」のように、様々な人の声を聴き、あるいは予測し、様々な方法で喜ばせる会社でありたいと考えたのですね。

「信用」と「継続」が「革新」のベース

信用は積み上げるのが大変で失うのもあっという間。だから、お客様に嘘をつかず喜んでもらう、そしてそれをやめない。これも経営理念の中核にあるそうです。だから、饅頭の研究にも青い窓などの活動革新と継続があります。

私の大切にしている言葉にこのようなものがあります。

大いなる根源よ。

変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気を与えてください。

変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えてください。

そして、その違いを識別する叡智を私に与えてください。
ラインホルド・ニーバーの祈りの言葉

柏屋さんの経営理念を知った際にこの言葉が思い出されました。

柏屋の企業をかけた「恩送り」は、お客様と共に歩んできた柏屋の歴史そのものであり、今後も地域の方と共に継続させていくのでしょう。

柏屋はコミュニティフリッジひまわりにもお菓子を寄付してくださっています。ペイ•フォワード記事Vol.10をご覧ください。

https://note.com/noriko_c_o/n/n509033d7e66a

おまけ①

お饅頭の形をした自然石「願掛け萬寿石」との写真撮影は「はい、チーズ」ならぬ「はい、まんじゅう」。まんじゅうポーズは、底を平らに、上をまぁるく、がポイント!

本名会長(左)と青い窓の会の橋本さん(右)と一緒に饅頭ポーズ

おまけ②

「すずめの戸締まり」のパネルで会長自ら写真を撮っていただきました。会長はすでに二回見ていて号泣したとか。おすすめの映画だそうですよ。

柏屋さんが応援している映画「すずめの戸締まり」

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