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メメント モリ

大切に思う「言葉」があるのだ。
意味はもちろん、その音から受ける印象や雰囲気、耳触り。
めったにその言葉を使うことがなかったのは、それを使う時は、
大事に慎重に丁寧に扱いたいと思っていたからだったのだなぁ。

その大切な言葉が、テレビから頻繁に流れてくる。

「メメントモリ」という言葉を知ったのは、藤原新也の写真集だったと思う。
有名なシルクロードで犬に喰われるご遺体の写真などを収めた写真集のタイトルが「メメントモリ」だった。
ただ、私には藤原新也が撮った別の写真にこの言葉が
ぴったりと繋がった。

「フォーカス」に掲載された藤原新也の写真は衝撃だった。
息子が両親を金属バットで殴り殺した、その家族が住んでいた家は
豪邸でも掘っ建て小屋でもない、本当に普通の家で、
そしてその家はどこまでも青くて明るい、
洗濯物を干しながら「ああ、なんていいお天気!」と声に出して言いたくなるような、
そんな空を背景に写っていた。

私にはまだ、死はこちらから向かわない限り遥か彼方のことだったけれど
その写真は「普通の家の平凡な日常にある日突然、とんでもなく凶悪なことがおきることがある」という禍々しさに満ちていて、
「メメントモリ(死を想え)」という言葉と一緒に胸に刻まれた。

その後、いくつか親戚や友人の不条理な死があり、
両親を見送り自分も歳を重ねて、「死」はだんだん身近になった。
その都度「メメント モリ」は私を宥めてくれた。
夫が難病で余命がそう長くはないと告げられてからは、
その言葉は日常になって、いつもそばにいてくれた。

今テレビから流れる「メメントモリ」のCM。
ゲームアプリの名前らしい。
ゲームの内容は全くわからない。
ただただ単純に「メメントモリ」という言葉と
このCMの組み合わせがとんでもなく不愉快だ。
大切にしてきた「メメントモリ」という言葉が、
とても軽く扱われている気がしてしまう。
「メメントモリ」のあとに
「今なら、この子もらえる」とか「がちゃ100連分無料」とかいう言葉が続くと
思わず立ち上がって「メメントモリ」はそんなに簡単に使っていい言葉じゃないの!と叫びたくなる。

もし、このゲームをやってみたら、その内容に、
私はもっと深く「メメント モリ」を感じることになる可能性もなくはないのだけど。


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