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旅人になる

幼い頃、両親は一生懸命働いていたが、
家計は苦しく、家族旅行といえば
父親の勤続20年に対する会社からのご褒美の
一回きりだった。

私は、図書館で借りた本や地図を眺めては、
おそらく行くことがないだろう
(と、当時は思っていた)
遠いところに想いを馳せながら、
あれやこれやと妄想するのが好きだった。
無意味に、国名や地名をやたら覚えていた。

テレビの旅番組を見るのも好きだった。
あたかも自分が旅をしているかのように
気分だけは旅人であった。
いつでも旅人になれる心の準備は
万端だった。

大学生になって、アルバイトで稼いだ
お金で旅人になることができた。
初めて行ったのはどこだったっけ?
沖縄だったかな。
初めて飛行機に乗った。
行きは、フェリーだったな。

生活圏から脱出する開放感を味わった。

大学を卒業する頃には
日本から脱出する開放感も味わった。

どこにも行けないと思っていた幼い日
旅人に憧れていた幼い日
地図を見ながら、いつか行けるかもしれないと
ワクワクした日。
あれはあれで、楽しかったのかもしれないな。

歳を重ねるごとに
旅人のありようも変化しつつある。

電話や手紙で宿を予約し
時刻表と地図を手がかりに
人に道を尋ねながら旅した日々も
懐かしく愛おしい。

今ではすっかり
スマホやオンラインの恩恵を享受しながら
21世紀の旅を楽しんでいる。

さてさて
これから先はどんな旅人になっていくのだろうか
楽しみでならない。




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