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「奪うもの、奪われるもの」についてのお話


こんにちは、のりっちです。

今般「奪うもの、奪われるもの」がとある作品に酷似している、模倣したのでは、との指摘がありました。


ここでは、私なりに「奪うもの、奪われるもの」が、指摘のあったとある作品(以下「件の作品」または「指摘のあった作品」という。)の模倣でないことを疎明したいと思います。

※ 完全ネタバレです、ご注意ください。








1 栃木実父殺し事件の紹介

「奪うもの、奪われるもの」は、現実に起きた事件「栃木実父殺し事件」がモデルです。

実在の事件がモデルであり、指摘のあった作品とモデル被りをしてしまったことが、模倣との指摘を受けた最大の要因と考えます。

まずは「栃木実父殺し事件」と裁判の争点(の概要)を、お読みください。

(栃木実父殺し事件と裁判の争点)


栃木実父殺し事件(リンク)

外部サイトです。
私の手が入っていない客観的な情報を読みたい方は、
こちらの記事をお読みください。


「奪うもの、奪われるもの」の主人公(被告人)を取り巻く状況、境遇や、法廷での争点は、栃木実父殺し事件の世界を反映させています。




2 制作動機、経緯



栃木実父殺し事件を読んで、栃木実父殺し事件のIFの世界を創りたい、真実と法律の狭間で悩む裁判官の悩み、葛藤、苦しみを再現するマーダーミステリーを創りたいと思いました。

(奪うもの、奪われるもの 制作動機&コンセプト)

この2つが「奪うもの、奪われるもの」の創作の原点であり、制作動機、コンセプトです。


(どんなIFを反映させたのか?)


栃木実父殺し事件の2つのIFが「奪うもの、奪われるもの」のメイン・ギミックになっています。

プレイ体験をされた方は記憶に残っているかと思いますが、いかがでしょうか?





3 主人公(被告人)の状況、境遇、態度の対比


主人公(被告人)の状況、境遇、態度が一致すれば、模倣の「印象」が強くなります。

主人公(被告人)の状況、境遇、態度の対比は以下のとおりです。


「奪うもの、奪われるもの」は、栃木実父殺し事件のIFの世界として制作しましたので、「奪うもの、奪われるもの」の被告人と、栃木実父殺し事件の被告人は、ほぼ同じです。

「奪うもの、奪われるもの」の被告人、西村陽葵のプレイヤーは、以下の設定と栃木実父殺し事件の被告人の状況を、重ねることが出来るはずです。

≪西村陽葵に反映させた状況、境遇、態度≫

・貧しい家庭、DV気質の父、被告人を置いて逃げた母
・14才で性的暴行を受け、その相手を殺害
・(おそらく)愛情に飢えた子ども時代
・殺人を犯し、死刑が射程内となる裁判の被告人
・犯行事実を自白(動機は黙秘)

指摘のあった作品の主人公(被告人)の状況、境遇、態度も、対比してみてください。

栃木実父殺し事件の被告人の状況、境遇と、重なっています。






4 犯した犯罪「殺害した人数」の対比



次は被告人が犯した犯罪「殺害した人数」を対比してみます。

「栃木実父殺し事件」は実父1名の殺害です。

「奪うもの、奪われるもの」は実父を含む、4名の殺害です。

「指摘のあった作品」は、被告人が真犯人かどうか作中明らかでなく、実父を殺害した描写もありませんが、数人(一読なので曖昧ですいません。)を殺害したと起訴されています。


「殺害した人数」に注目すると、2作品は複数で、栃木実父殺し事件は1名です。この差異には何か理由があるのでしょうか、それとも単なる「模倣」なのでしょうか?


実は2作品の「殺害した人数」が実父殺し事件と異なる理由は、事件当時と現在の法律の差異にあります。


栃木実父殺し事件当時は尊属殺人罪がありましたので、実父1名を殺せば「死刑か否か」が論じられました。

ですが現在は、尊属殺人罪が削除されているので、被害者の数が1名だと「死刑か否か」を論じることができまないのです(永山基準)。


(死刑の判断基準)


私が「奪うもの、奪われるもの」で再現したかったのは、栃木実父殺し事件の「被害者の数」ではなく、裁判官の苦悩、葛藤です。

優先すべきは「死刑か否か」を論ずる裁判を描くことでした。件の作品も同じかと思います。



このような法律的なアプローチ、事情から、被害者の数が異なります。





5 「死体の切断、遺棄」について


2作品では「死体の切断、遺棄」を行っていますが、栃木実父殺し事件にはそのような事実はありません。
この差異はどうなんだ、模倣ではないかと疑指する向きもあるでしょう。


しかし、そもそものお話になりますがー、
死体を切断、遺棄するという設定は、他の創作物を「模倣」しなければ思いつかないようなことでしょうか?

「左手だけを切断し保管する」というような、独自性、創作性のある部分が類似していれば指摘はもっともでしょうが、そうではありません。


占星術殺人事件(1981年著 島田荘司)という推理小説があります。

死体がバラバラにされて遺棄(あらすじにあり)される事件を描いた推理小説ですが、占星術殺人事件が出版された以降も、死体をバラバラにして遺棄する推理小説は次々と世に出ています。
作家も読者も、死体をバラバラにして遺棄するという行為・表現自体には創作性が認められないと(意識しないまでも)考えている証左でしょう。

数多くの創作物の中で「連続殺人」や「死体切断」が表現がされているのに、どうして「奪うもの、奪われるもの」の設定、表現が件の作品の「模倣」なのか、私は甚だ疑問に思います。






6 「争点」を物語に取り込む、経緯と工夫



栃木実父殺人事件の「争点」は、尊属殺人罪の「量刑」です。

平易な言い方にすると、
被害者が実父か否で量刑が変わることの是非
が法廷で争われたのです。


実は、この「争点」は法律学部で学んだ者であれば、必ず教わります。
尊属殺重罰規定違憲判決、と言えば耳にしたことがあるはずです。


「刑法第200条尊属殺人罪」
自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス



尊属殺人罪を適用すれば、実父を殺した被告人は重罰に処せられます。法を遵守するなら、実父を殺した被告人の量刑は「死刑又は無期懲役」です。

被告人を救うには、法令違憲(法律が無効である)判決を下さなくてはなりません。

ですがー。
それまで日本の法廷史の中で、法令違憲判決が出されたことは1度もありませんでした。法令違憲判決は司法の「伝家の宝刀」であり、けして抜かれることがない、抜いてはならない最後の権能だったのです。

裁判官は、事件と法律の狭間で苦悩、葛藤があったに違いありません。

法律を適用し重罰を科すか・・・
法令違憲判決で、被告人を救うべきか・・・

裁判官のこの苦悩、葛藤や法廷の争点が「奪うもの、奪われるもの」の要素(テーマ)であり、出発点であることは前述したとおりです。


さて。
現在「刑法第200条尊属殺人罪」は、現在刑法から削除されています。

そのため
被害者が実父か否で量刑が変わることの是非を、物語の中で論じるためには、代わりとなる法律を用意し、工夫しなければなりません。


代わりとなる法律が、少年法でした。
少年法に至る思考の「経緯」と「工夫」が、次のとおりです。

(少年法を使うための経緯と工夫)

物語をどのようなものにすれば、
被害者が実父か否かで量刑が変わる是非を論じられるか?

法律的なアプローチをすると、方程式のように、必ずたどり着く帰結です。


法律的アプローチでなくとも、栃木実父殺し事件を読み「十数年も耐えなければ、少年法が適用できたのに」と心に感じた方なら、やはり、同じギミックに辿り着くのは容易なはずです。



「奪うもの、奪われるもの」も、指摘のあった作品も、実子、実親関係と少年法を工夫し物語を描くことで、栃木実父殺し事件の裁判官の苦悩、葛藤が体験できる創作物になっています。

また法律的なアプローチと工夫で形は変わっていますが、「被告人の実父母は誰か」という要素(テーマ)が法廷での「争点」になる点において、栃木実父殺し事件と2作品は同じです。


(「要素と争点」の対比)







7 登場人物


2作品ともに法廷ものですから、端から主人公を取り巻く登場人物は被ります。検察官、警察官、刑事、裁判官、弁護人、被告人etc…

同じキャラクターが何人も登場すると、模倣の印象を受ける可能性は高くなります。

中でも大きく模倣という「印象」を与えてしまったのが、児童相談員だったのではないでしょうか?


指摘のあった作品は、被告人と児童相談員の2人のやり取りがメインストーリーであり、2人が主役です。
作品のタイトルも、2人の主役の関係を表したものです。

一方、「奪うもの、奪われるもの」にも弁護人チームの一員として、被告人をバックアップする役割の児童相談員が登場します。

一般的には、児童相談員はレアと言っても良い職業です。おそらく指摘された方も、偶然の一致で済ますには不自然過ぎると思ったのでしょう。

分かります。
私も指摘され件の作品を読んでみて、頭を抱えました。


客観的に模倣を否定する術はありませんが、児童相談員童をキャラクターとして採用した「経緯」を書くことで疎明できると信じています。

被告人は10代でネグレクトを受け、犯罪に巻き込まれた少女です。
行政の視点からアプローチすれば、手を差し伸べなければならないのが、児童相談員という職業です。

現に栃木実父殺し事件では、10代の少女が学校に通わず、近所の住人が見ても異常な関係が分かる状況で、なぜ行政が気がつかなかったのかという観点で児童相談所が批判されました。

「奪うもの、奪われるもの」の被告人、西村陽葵も同じです。
西村陽葵は学校に通わず家に引きこもっている少女ですから、違和感なく接点が得られる大人として登場させることができる数少ない職業が、児童相談員だったのです。

児童相談員という職業は、社会一般から見てレアな職業かもしれませんが、現実的(リアル)な物語を創るために行政の視点からアプローチすると、児童相談員の採用は必然でした。


ここから多少乱暴で、かつ、特定の人にしか響かない物言いをさせて頂きます。仮定の話としてお聞きください。



推理小説でも漫画でも何でも良いですが、もし、あなたが他の作品を模倣してマーダーミステリーを制作するとしたら、主役キャラクターをそっくり模倣するでしょうか?

指摘のあった作品は、被告人と児童相談員の2人のやり取りがメインストーリーの、2人が主役の物語です。
主役の2人が被れば、間違いなく、模倣という印象を与えます。
模倣する人間は、最初からこのことを理解しています。

もし私が件の作品を模倣するのなら、主役の2人はそのまま模倣しません。

語弊を招くかもしれませんが「模倣するなら、もっと上手くやるわっ!」「主役の2人をそのまま模倣するほど、アホちゃうわっ!」と叫びたくなります。





8 書かれていないことは模倣できません



「奪うもの、奪われるもの」の第1回テストプレイの募集を開始したのは、2022年3月9日です。この時期に、物語の骨子が完成したと言えます。

同じ時期、指摘があった作品の巻数は、7巻(2022年1月28日出版)でした。指摘の類似点のいくつかは、指摘があった作品に「まだ」登場していません。

書かれていないことは「模倣」できません。



では逆にー。
2022年3月9日時点の「奪うもの、奪われるもの」と、指摘があった作品の8巻「以降」の類似点は、どう考えたら良いのでしょうか?

多数の人は偶然の一致だと思うでしょう。
わざわざ出版社へ指摘する人もいないはずです。

さらに言えばー。
今後、指摘があった作品の新刊に新たな類似点が出てきた場合も、やはり偶然の一致だと思うでしょう。


しかし私は、そう思っていないのです。


指摘があった作品は、「奪うもの、奪われるもの」と同じく「栃木実父殺し事件」とその裁判、またはその判例(尊属殺重罰規定違憲判決)をモデルにしている、もしくは影響を受けていると考えています。

法廷ものという舞台設定から始まり、主人公の状況や境遇、物語に登場するキャラクター、裁判の争点、物語の要素(テーマ)etc…

多少の差異はありますが、2作品と栃木実父殺し事件を対比すると、骨子部分はほとんど同じです。

私は偶然の一致ではなく、2作品ともに栃木実父殺し事件がモデルであるが故の必然だと、考えています。




なお、第1回テストプレイの募集開始日として2022年3月9日を上げましたが、制作開始さらに1年ほど前です。

コツコツと制作している期間は立証しようがありませんから私の言いっぱなしになりますが、同じ時期の指摘があった作品の巻数は4巻(2020年11月30日出版)だということは、付け加えておきます。





9 対比、まとめ


「奪うもの、奪われるもの」と指摘があった作品、そして栃木実父殺し事件を対比してきました。


一見、栃木実父殺し事件と異なるように見える争点も、法律的なアプローチよる工夫の結果ということも、述べました。


また、制作の動機や経緯も述べましたし、1回テストプレイの募集開始日と指摘のあった作品の発刊巻数も対比しました。

できうる限りの疎明はしました。
模倣「していない」ことの立証は不可能ですし、判断の基準もありません。

私は「模倣していない」と述べるだけです。
モデル被りが原因との論拠は示せたつもりです。
みなさんは、信じたいものを信じれば良いと思います。





行きつくところ、みなさんにとっても私にとっても、マーダーミステリーは「趣味」でしかありません。楽しむために制作し、楽しむために遊ぶのですから、意見や考えを押し付けても仕方がありません。

せっかくの「趣味」ですから、嫌な気持ちになるのは本末転倒です。

みなさんも、好きな作品を選び、遊び、楽しむべきです。嫌なものを遊ぶ必要はありません。
感想だって、自由です。
マーダーミステリーって、変にネタバレを気にしますし批判的なことを自由に言えないところもありますが、正直変な風潮だなあと思います。

今回の騒動も、どちらかと言うと「自分が作ったものでイヤな気持ちにさせて申し訳ない…」という気持ちが大きいです。

類似点を指摘したり、疑問を呈したりというのも、勇気と覚悟が必要なことです。
私も人間ですから「悲しい」気持ちにはなりましたが、指摘してくれた方に対して悪い感情を持っていないことを記しておきます。



長々と書き連ねましたが、お読みいただきありがとうございました。

ゲームを遊んでいただきありがとうございます。よろしければ,サポートを頂けると助かります。今後のマーダーミステリー制作の資金にさせていただきます。