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レアメタルとレアアース勘違いしてる?

コバルトリッチクラストの採掘に成功というニュースがあったので一言。

この記事では、

リチウムイオン電池に不可欠なレアメタル(希少金属)で、中国依存度が高く、国産化が課題
希少性が高く、日本は国内消費量のほぼ全てを輸入に頼っている。

とあるが、こう書かれるといかにも今回の採掘が中国依存度低下に貢献するかのように読めてしまう。

しかし、実際にはコバルトやニッケルの中国生産シェアはコバルト6%ニッケルは20%未満で、むしろ中国こそが輸入に依存している。

中国に世界が依存しているのは、10年前に話題になった「レアアース(希土類)」の方で、こちらはEVなどのモーターに使われる磁石の添加材料であるディスプロジウム(Dy)などのこと。この問題も、民主党政権のから騒ぎで、今や消費量は抑えられて価格は低迷。年間のレアアース輸入費用を超える数百億円を投じた国の対策費は殆ど無駄に終わった。日本はWTO訴訟には勝利したが、こっそり日本が最先端を走ってた磁石開発の重要性が世界にばれてしまい、欧米や韓国でも巨大予算が組まれ、激しい競争に晒されるようになっただけだった。

とまあ、これは「レアアース」の話だが、今回の記事は「レアメタル」の件。レアメタルとは、科学用語ではなく、ある意味政治的に希少性が高いと分類されている鉱物資源のことで、レアアースやコバルト、ニッケルも含む。レアメタル全体としてみると、確かに中国の生産シェアが独占的なものが多く、レアアースに加え、タングステン、モリブデン、バナジウム、スズ、アンチモン、なども中国が高いシェアを持っている。

しかし、必ずしも中国の生産シェアが高くないコバルトやニッケルのようなものもあり、今回の採掘成功のニュースをその様な文脈で紹介するのはミスリーディングだろう。

読売の記事では、国内消費量の何年分という言い方で、いかにも「資源」であるかのような書き方をしているが、同じ話題のJOGMECのプレスリリースをみると、

「資源化を促進」とある。つまり、コバルトリッチクラストは、未だ「資源」ですらないということだ。

資源開発の分野では「資源」とは技術的に回収可能なものの事を指す。今回の採掘で採掘は成功したものの、サプライチェーンまではみえていないので、正確に「資源化を促進」と書いたのだろう。

資源開発に置いては、採掘にかかるコストと、実際に生産する際のオペレーションが組めるかどうかが商業生産が可能かどうかの分岐になる。

採掘コストに関しては、金(7000円/g)、銀(90円/g)、プラチナ(3000円/g)、やバニラ(40円/g)や幼齢生コオロギ(2000円/g)のように、余程のグラム単価が見込めれば別だが、コバルト(0.03-0.09円/g)やニッケル(0.01-0.03円/g)程度の価格の固形物を、人が潜水作業不可能な900mの水深で連続生産してペイさせるのは至難の技だろう。

天然ガス(〜0.01円/g)や石油(〜0.04円/g)の場合は流体なので、一度あてて仕舞えば連続生産が楽なので、掘削コストはグラム単価が安くても済むが、もっと問題になるのは陸地からの距離である。

鉱物資源の連続生産には、生産に従事する人の生活基盤となる拠点の設置と、安全性の確保が重要。これまで人類が行った沿岸の資源開発で、最も遠いものは、おそらくノルウェーのスノービット天然ガス田で約150km。これ以上遠いと、航続距離500km程度しかない商用ヘリでの往復が難しくなる。いざという時の従業員の安全確保ができない環境では、誰も雇う事はできない。

今回の採掘現場の南鳥島から距離は発表されていないが、以前の資料では600km。南鳥島には気象庁や防衛省の職員など数十人が居住しているが、生活の基盤があるとはとてもいえない。そして東京から1860km離れている。

技術開発は素晴らしいことだが、予算説明の大義名分は正確であって欲しい。

かつて、「ソ連の人工衛星を持って帰る」という大義名分で予算取りして作られた、人類の宇宙開発史上の失敗作「スペースシャトル」を思い出してしまう。




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