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英国でシェール革命起きず!政府は「開発」で立ち往生 関連活動への46億円の投資は水の泡に

英国政府は11月1日、国内での水圧破砕を停止すると発表した。それに伴い、国内におけるすべてのシェールガス開発は停止されることとなった。

この判断は、英国の石油・ガス上流事業の規制機関であるOGA(Oil and Gas Authority)が10月に公表した報告書に基づいて行われたものである。この報告書では、水圧破砕に伴う地震の可能性や規模を予測することはできないと警告している。

英国で現在、唯一シェールガス開発を行っているクアドリラ社は、今年8月、これまで停止していた掘削活動を再開したが、その直後に最大でマグニチュード2.9の134回に及ぶ地震が発生。数千人の住民が揺れを感じ、数百人が家屋の被害を報告した。この揺れは、政府が基準としていたマグニチュード0.5という基準を大きく上回っていたため、開発は直ちに停止された。

英国政府が、国内のシェールガス開発を停止させたのはこれが初めてではない。方針は推進と停止を振り子のように繰り返している。

米国のシェール革命に触発され、英国においても国内シェールガス開発への関心が高まり、2007年頃から一部の地域で開発が始まっていた。しかし、2011年5月、クアドリラ社が行った試験採掘の際にマグニチュード2.3および1.5の小規模な地震が発生し、開発は即時停止に追い込まれた。

地震発生の4ヶ月後、クアドリラ社は新たなシェールガス資源の発見を公表し、英国の天然ガス消費の「56年分」を満たすことが出来ると主張。メディアもそうした数字をセンセーショナルに煽った。その後、英国政府は2012年12月に規制を解除したが、再開までおよそ7年の月日が費やされた。しかし、今回の件で再び停止されてしまった。クアドリア社は、いまだ商業生産はゼロだが、これまでの開発に約2億7000万ポンド(約380億円)を費やしてきた。

英国政府としては、これまで基本的にシェールガス開発を慎重ながらも推進する路線を歩んできている。その背景には、英国は欧州における最大の天然ガス消費国でありながら、生産量が急減し輸入量が増大しているという事実がある。

2000年頃までは、北海ガス田での開発拡大によって、国内消費を概ね賄ってきたが、2000年以降はガス田の老朽化のため生産量は激減。2004年に純輸入国に転落し、2018年時点で生産量はピーク時の35%まで低下。自給率も約50%まで落ち込んでいる(図参照)。

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その様な背景の中、ガス産業の復興、雇用の創出、エネルギー自給率の向上、石炭に比べ温室効果ガスの排出が少ないという環境性、などの文脈もあり、英国政府はシェールガス開発を推進する方針をとってきた。より詳細な資源調査を行い、開発のための規制などの環境整備を整えてきた。

しかし、シェールガス開発が一気に進んだ米国と比べると、英国での開発が難しい点がいくつかある。

まず一点は、米国と異なり英国など世界の殆どの国は地下資源の所有権がその土地の所有者に付属せず、政府が保有するという法体系であるため、開発地域の住民への経済的インセンティブは事業会社との間の交渉で決まる。その場合、一般に交渉力の弱い住民側の経済的メリットはかなり小さい。

さらに、米国と比べると英国におけるシェールガス開発地域の人口密度は高いため、経済的メリットが小さければ多くの反対運動が起きることになる。

2014年10月の調査では、地域住民による4万件の回答の99%が反対だった。また、全国規模の調査では、35%が反対で、15%が賛成、残りは意見なしという数字もある。英国政府は、これまでのシェール関連の活動に約3300万ポンド(約46億円)を投じてきたが、そのうち約1300万ポンドは反対運動の取締りに費やされてきた。

もう一点は、そもそも英国のシェールガス資源は地下構造が複雑で、採掘コストが高く、米国ほどのコストメリットがない可能性があるという根本的な問題である。まだ資源調査は不十分で、埋蔵量の評価や生産量の見通しは不確実性が高い。

さらに、近年、欧州を中心に広がっている脱化石燃料のトレンドは、これまでターゲットとされていた石炭だけでなく、比較的環境に優しいと考えられてきた天然ガスをも規制しようという流れになってきている。今年3月、英国の高等裁判所は、政府のシェールガス推進政策は、気候変動への影響を考慮していないため違法であるという判断をしている。

英国政府は、今回の停止判断について、水圧破砕技術が安全であると証明する「説得力のある新しい証拠が提供されるまで」将来のフラッキングには同意しないと述べているが、シェール開発に伴う微小地震の発生自体は米国でも広く確認されている現象であり、このハードルはかなり高い。

英国は、米国以外の先進国の中で最もシェールガス開発に力を入れてきた国の一つだが、今回の決定により米国以外では「シェール革命」は起きないということが、より広く認識されることになるだろう。

(EP Report 2019年11月21日 1968号 より転載)

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