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コロナが石油産業を直撃

新型コロナウィルスが世界で猛威を振るう中、石油産業もかつてないほどの衝撃に直面し、世界経済にさらなる暗雲をもたらそうとしている。

原油価格(WTI)は、一時20ドル/バレルを割り込み、およそ20年来の低水準となった。この水準はほとんどの石油企業にとって持続不可能なレベルである。特に懸念されているのは、シェールオイル、オイルサンド、海底油田といった、比較的高コストな油種を扱う事業者である。

4月1日、米国のシェール企業ホワイティング社が「チャプター11」を発動し破綻処理のプロセスに入った。今年の原油価格下落の中で破綻した中堅シェール企業の第一号となった。

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同社は、かつてノースダコタ州のバッケン鉱区で最大の生産量を誇ったが、その後生産不振により業績が悪化。企業評価額は2011年につけた150億ドルから99.8%下落し3200万ドルとなっていた。破綻に際し、約22億ドルの債務削減を新株との交換などを条件に債権者と合意。今後もこれまで通りの操業を続けるとしている。

今後、同様に破綻するシェール企業が続発すると考えられる。元々、原油価格が下落する前の2018年秋頃から、資本市場がシェール企業から引き上げ始めており、厳しい経営環境が続いていた。既に⼀昨年に28社、去年は50社程のシェール関連企業が破綻している。市場では、すでに再建のプロセスに入っている企業として、アンテロリソース、 カリフォルニアリソース 、 ガルフポートエナジー、チェサピークエナジー、等の名前が上がっている。

多くのシェール企業が破綻することになれば、金融システムにリスクが伝搬する懸念もある。近年のシェール企業はレバレッジドローンを利用しているところが多い。レバレッジドローンは、ジャンク債すら起債できない信用力のない中小企業でも資金調達が可能で、リーマンショック後に爆発的に拡大。市場規模はジャンク債を上回るほどになっている。

そこで懸念されるのが、CLO(コラテラライズド・ローン・オブリゲーション:ローン担保証券)と呼ばれる金融商品である。CLOは、レバレッジドローンを担保に証券化し、そのリスクの高い証券を集めたものを裏付けとして様々な安全度(トランシェ)の債券を発行するというもので、全レバレッジドローンの6割はCLO市場に組み込まれているといわれている。

CLO全体の中で、シェール企業等エネルギー関連のローンは2%程度と小さく、計算上はリスクが低いことになっているが、リーマンショック時にサブプライムローンに端を発して本来低リスクとされた金融商品が暴落した様に、複雑な金融工学に疑心暗鬼となった市場心理によってはCLOの暴落はありえなくはない。そして、日本の金融機関は多くのCLOを保有している。

一方、オイルサンドを生産するカナダの石油産業も、米国のシェールと並び厳しい状況にある。カナダの重質油の価格指標であるWCS(ウエスタン・カナディアン・セレクト・クルード)は、3月30日に5ドル/バレルを割り込んだ。これは、全てのオイルサンド生産者にとって生産コストを下回っていると考えられる。カナダロイヤル銀行(RBC)の試算では、オイルサンド産業の中心であるアルバータ州とサスカチュワン州だけで、国全体の雇用損失の20%にあたる20万人が失職するとしている。

しかし、カナダのトルドー首相はオイルサンド産業の段階的廃止を公言しており、経済対策として失職者の支援をしてもオイルサンド産業の支援をしない可能性がある。

欧州の石油産業も同様に危機の中にある。ノルウェーのエネルギーコンサル ティング企業リスタッドエナジーによると、ノルウェーや英国を中⼼に欧州に200超ある中⼩⽯油企業のうち、20%が破綻する可能性があるという。ノルウェーや英国は、北海油⽥など⽐較的⾼コストな海底油⽥開発を中⼼に⾏っている。元々、北海油田は石油危機による原油価格高騰を背景に発展したが、油田の老朽化により衰退のプロセスにあった。今回の危機は逆に事業の存続に関わるものとなるだろう。

サウジアラビアとロシアの協調減産協議の打ち切りと、サウジアラビアの増産計画は、原油価格急落の一因と言われている。トランプ大統領が両者の仲介に入り「1000〜1500万バレルの減産」とツイッターで言及した。

この「ツイッター介入」により、原油価格は25%上昇した。しかし、それぞれ1100万バレルの生産量しかないサウジアラビアとロシアだけでその減産を実現しようとすれば、5〜7割もの減産が必要で、そのような合意は不可能に思われる。米国の石油産業が協調減産するとしても、大統領にそのような権限はない上、米国の独占禁止法に違反する。

しかし、石油産業にとって今回の危機の本当の恐ろしさは、原油価格の急落よりも、むしろ需要の急落にある。ゴールドマン・サックスによれば、4月の原油需要減は2600万バレルに達するというが、これは世界原油需要の25%、中国の消費量の倍に相当する。

世界が新型コロナの厄災からいつ回復できるのかは誰にもわからないが、原油需要が戻る日は果たしてやってくるのだろうか。

(2020年4月11日発行のEPレポート1980号より許可を得て転載)

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