キングオブコント2022ファイナリスト寸評(その1)。トップバッター・クロコップが弾けた理由とは

 前回のキングオブコント2021決勝。空気階段が優勝を飾ったこの大会を、「キングオブコント史上最高レベル」と称する声は、それなりに多く聞こえてきた。いまからちょうど1年前の話になる。少なくとも直近の大会の出来に比べると、そのレベルが格段に上がっていたことは誰の目にも明らかだった。

 では、今回行われた決勝戦はどうだっただろうか。

 今回のキングオブコント2022決勝は、「お笑い賞レース史上最高レベル」。僕は迷わずそう断言する。前回の大会はもちろん、ネタの面白さという点においては、錦鯉が優勝した昨年のM-1グランプリ2021決勝をも上回っていた。「今後のお笑い界、安泰だと思いました」。そう述べたのは、ファイナルステージが始まる直前、優勝トロフィーの返還に登場した前回王者の空気階段・水川かたまりだが、この台詞には筆者も思わず同調したくなったものだ。

 大会のレベルは明らかに右肩上がりを続けている。大会の形式が現在の形になったのは2015年からになるが、そんな数年前と比較すれば、その違いは一目瞭然になる。かつてがいかに緩かったか。そして、現在がいかに厳しいか。ある程度年季が入ったお笑いファンならすぐに気がつくというか、お分かりいただけると思う。

 かつてとはいったいどこが大きく変わったのか。具体的に言えば、面白くないグループがほぼいなくなったことだ。「全組面白かった」。今回はとにかくこのひと言に尽きる。

 最下位に沈んだニッポンの社長、6位に終わった最高の人間らは、今回暫定席に座ることもできず、その場で敗退が決定した。大会前の下馬評がとりわけ高かった2組。彼らには審査の際、それなりのマイナスな意見も呈されたものだが、ネタ自体は決してそれほど悪くなかったとはこちらの率直な感想になる。というか普通に面白かった。9位に終わったいぬにも同じことは言える。今大会のなかではよくなかった方かもしれないが、過去のファイナリストに比べれば断然、面白かった。少なくとも前回のマヂカルラブリーとニューヨークは確実に上回っていたと思う。

 上位と下位に特段大きな差は存在しなかった。これが今大会を見て抱いた正直な感想だ。決勝の舞台を踏んだ全組がハイレベル。出番順とかネタの選択といった些細なことが結果を分けた、そう言いたくなるグループもまた多かった。もう一度大会を最初から行えばどうなるか。それに基づくと、今回のファイナリスト10組全てが、優勝の可能性のあったグループに見えてくる。

 優勝したビスケットブラザーズとその他のファイナリストたち。あえて思い切って言えば、その差は紙一重だったと僕は思う。それは言い換えれば、今回優勝できなかった9組に、飛躍の可能性を感じたことになる。少なくとも「優勝は絶対に無理だ」と言いたくなるようなグループは、今回1組もいなかった。

 そんなファイナリスト10組について、ファーストステージの出番順にそれぞれ寸評を述べてみたい。

○ グループ名(所属事務所)[決勝出場回数]

・クロコップ(ケイダッシュステージ)[初出場]

 460というその得点は、昨年同じくトップバッターを務めた蛙亭(461点)とほぼ同じ。だが僕的には、今回のトップバッターを務めたクロコップの方が、面白さを含む好感度という点においては明らかに上だった。前回の蛙亭も初の決勝だったが、蛙亭が決勝に進出する前からそれなりに売れていたのに対して、クロコップはほぼ無名。まさに今大会随一のダークホースだったわけだが、そんな無名のコンビが、賞レースのトップバッター史上最高とも言いたくなる堂々とした姿を披露して見せた。
 そんなクロコップを見て筆者が思わず想起したのは、昨年のM-1決勝で「さそり座の女」ネタを披露したモグライダーだ。モグライダーもクロコップ同様、トップで登場しながらも会場を大きく沸かせ、大会の火付け役になったことは記憶に新しい。ネタに関しても、両者ともに既存の音楽を利用したゲーム性のあるネタだった。拍手笑いを何度も沸き起こすなど、ネタの出来栄えは申し分なかったが、どちらのコンビも最終的な結果は8位に終わっている。M-1のモグライダーと今回のクロコップ。彼らに共通して言えるのが、トップ以外の順番でそのネタを見てみたかったということだ。8位という結果は、順番という不運によるものが大きい。今回のクロコップをひと言でいえばそうなる。
 繰り返すが、筆者は今回のクロコップをかなり「買っている」。その理由は彼らが見せたネタにある。もっと言えばそれは、トップという不利な順番で登場したにも関わらず、ネタ開始から僅か30秒で大きな笑いを起こした理由とも関係している。
 以前もこの欄で述べたが、筆者が今大会の準決勝を視聴したFANYでの有料配信では、クロコップの準決勝1日目のネタは配信リストからは外れていた。視聴できたのは、2日目の1本のみ。そのネタが僕的にはイマイチ物足りなかったので、彼らの決勝進出はこちらには少し意外だったのだ。「(準決勝)1日目のネタが相当面白かったのだろう」。そのように想像するしかなかったのだが、決勝で見せたそのネタの出来は、こちらの期待を遥かに上回るものだった。それと同時に、有料配信のリストから外れた理由もすぐに理解できた。その「ホイリスト」というネタの元になっているのは、あっち向いてホイではなく、『遊☆戯☆王』をオマージュしたもの。ネタの大半の時間に流れていたBGMは、『遊☆戯☆王』のアニメではお馴染みの「熱き決闘者たち」という曲になる。このBGMを無音にしてしまえば、ネタが成立しないことはもちろん、わざわざ配信する意味もなくなる。著作権などの点から、配信できなかったことは致し方ないことだと言えるだろう。
 話を戻せば、そんなこの「ホイリスト」というネタが、なぜ早々に大きな笑いを起こすことができたのか。それはおそらく、観客との相性がよかったからだと筆者は推察する。先述のBGMの元である『遊☆戯☆王』のアニメが放送されていたのは、主に2000年代前半。このアニメのメイン視聴者だった当時の小、中学生は、現在では20代後半から30代半ばくらいの年齢になる。それは言ってみれば、決勝戦のスタジオを埋めていた多くの観客とおそらくほぼ同じ世代のはずだ。『遊☆戯☆王』を見たことがある人は、あのBGMが流れた瞬間、おそらく一気にワクワクしたというか、目を奪われたのではないだろうか。
 ネタを作ったクロコップの2人は同級生。両者とも1987年生まれの現在35歳だ。2000年代前半は中学生。それは当然、「遊戯王世代」に相当する。一方で、今回の審査員5人の中で最も若いのは、41歳のかまいたち・山内健司だ。『遊☆戯☆王』が流行っていた頃にはすでに20歳を超えている。その審査コメントから察するに、おそらく山内は『遊☆戯☆王』を見たことがないものと思われる。山内よりも年上の他の4人の審査員も同様、『遊☆戯☆王』を知っていたとは全く思えない。例のBGMやネタ中の言葉使い(俺のターン、アイテムカード発動等々)などに対して、敏感な反応を見せた感じはなかった。あくまでもネタそのものに魅入っていたという感じだった。
 「クロコップさんでスタッフさんが笑い過ぎてて、すごい不安になりました」。3番目に登場したかが屋・加賀翔が自分たちの採点前にこのように述べていたことからも、大会関係者の中にもクロコップのネタが突き刺さる「遊戯王世代」の人がたくさんいたものと推察する。おそらく準決勝でも完成度の高い出来だったものと思われる。彼らのネタが弾けたことに僕は必然を感じるのだ。「遊戯王世代」ではない審査員たちに自分たちの面白さを伝えたことも、彼らに拍手を送りたくなる大きな理由のひとつだ。
 この先、クロコップはどこへ向かうのか。気になるのはこの先だ。ネタの面白さ、その実力は今回視聴者にも十分に伝わった。その露出は今後それなりには増えるだろうが、例えばバラエティ番組で活躍できそうかと問われれば、今のところはまだ不明瞭だ。蛙亭やモグライダーのように、キャラクターが鮮明という感じではない。見た目はどちらかと言えば地味。中野とイワクラ(蛙亭)、ともしげと芝(モグライダー)に比べれば、その違いはわかりやすい。そのトークセンスはどれほどか、まだあまり見たことがないのでハッキリとは言えないが、一方で、救いになる要素も彼らは備えている。ファイナリストが決まった直後にも述べたことだが、ケイダッシュステージ所属というその肩書きは、それだけで他のグループとは違うというか、少なからずの異彩を放つことができる。事務所初のキングオブコントファイナリストとなれば、なおさらだ。M-1を沸かせたモグライダーは今年、大きくブレイクした。では、クロコップはどうなのか。モグライダー級とは言わないが、彼らにもそれなりの活躍はして欲しい。そうでなければ大会に傷がつく。それほどに輝いて見えたとは、今回のクロコップに対するこちらの評価である。

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