かつてのレッドカーペットをアップデートさせたザ・ベストワン

 昨年10月からレギュラー化された「ザ・ベストワン」(TBS)。とはいえ、毎週放送されているわけではない。放送頻度は月に1,2回。加えて、その全ての放送回が、最低でも2時間以上のスペシャル番組としてオンエアされている。

 番組のMCは3人。今田耕司と笑福亭鶴瓶。残るもう一人は、毎回異なる女性アナウンサーが担当する形となっている。

 番組のMC風景、そして芸人が回転式の舞台で入退場する姿などを見ると、いやが上にもかつての人気番組を連想させる。今からおよそ14年前にレギュラー放送されていた「爆笑レッドカーペット」(フジテレビ)。その番組としてのスタイルは、大雑把に言えばほぼ同じだ。メインMCが今田耕司なので余計にそうしたイメージは強くなる。

 かつて一世を風靡したネタ番組「爆笑レッドカーペット」。そのスタートは好調だった。「エンタの神様」とは異なる路線を行く、俗に言うショートネタを中心としたネタ番組。多くのブレイク芸人を輩出するなど、2008〜2009年頃のお笑い界を席巻した。しかし、番組としてのピークはせいぜい1,2年と、その寿命は短かった。特番時代と放送開始当初はよかったが、放送期間の後半になるにつれて、出演者並びにネタのレベルは落ちていった感じだ。途中から芸人たちをコラボさせたり、ネタ見せ以外のコーナーを企画したりするなど、番組としてのスタイルも次第に曖昧なものになっていた。そして気がつけば、番組は静かに終了してしまった。レギュラー化当初の勢いはどこへやら。かつての人気番組とは思えない、その面影を感じない寂しい終わり方だったような記憶が筆者にはある。

 「ザ・ベストワン」もレッドカーペットのようになるのではないか。番組のレギュラー化が発表された時、真っ先に心配したのは、その番組としてのスタイルだった。もっと言えば、こだわりになる。

 番組はいつか必ず終わる。こだわるべきはその終わり方だ。人知れずひっそりと静かに終わってしまうのか。それとも、余力を残しながらも惜しまれつつ終わるのか。この差は大きい。その後の印象に大きく関わってくる。

 そうした視線をザ・ベストワンに傾けると、現在までのところ、そう悪くは見えてこない。もう少し踏み込んだことを言えば、レッドカーペットの教訓が活かされている、となる。番組のスタイルは似ているが、その細部には微妙な細工が施されているという感じだ。

 レギュラー化したと言いつつも、毎週ではなく月イチ程度の放送にしているところ。アナウンサーを毎回ローテーションさせているところ。実力者と新顔をバランスよく出演させているところなど、かつてのレッドカーペットをアップデートさせたかのような、その反省を活かしたような番組になっている印象を受ける。少なくとも個人的にはまだしばらくは見ていたい番組のひとつになる。

 そして当たり前の話になるが、出演者たちのネタも面白い。かつてより芸人たちのレベルが上がったこともあると思うが、それを差し引いても、十分見ていられる内容になる。先週(2月11日)の放送がまさにそんな感じだった。

 和牛、ジャルジャル、ジャングルポケットなどの知名度が高い実力者たちを何組か出しつつも、番組のメインは、『ベストワンガチャ』と題した、主に新顔たちを中心とした放送内容だった。今後の賞レースで注目の芸人、言い換えれば、知名度がまだそれほど高くない芸人たちを番組のメインに据えていたわけだ。だが、ここで登場した芸人たちのネタのレベルはこちらの期待以上に高かった。

 もも、モグライダー、ゆにばーす、ランジャタイ、そいつどいつ、天才ピアニスト等々、昨年の賞レースファイナリストたちの姿が目立ったが、その他にも目を凝らしたくなる芸人は多かった。個人的に印象に残ったのは、コットン、大自然、シシガシラ。その中でもあえて一番を挙げれば、シシガシラになる。ひと言でいえば、センス溢れる知的なハゲ漫才。かつてのM-1王者・トレンディエンジェルとはまたひと味違うその漫才には、ブレイクの匂いがふんだんに漂っている。近い将来、M-1の決勝に行きそうな匂いを感じたコンビだ。

 繰り返すが、ネタのレベルは総じて高かった。およそ3時間の放送ながら、番組が最後までダレることはなかった。この手のネタ番組では珍しい話だと僕は思う。名のある人気者ばかりを出すネタ番組より、その出来はよかったと言いたくなる。

 レッドカーペットのように新戦力が枯渇することはいまのところなさそうだ。変にキャラ芸人を輩出したり、コラボレーションさせる必要は全くない。レッドカーペットの全盛期と比較すれば、面白い優れた芸人はたくさんいる。彼らの実力はブレイク芸人たちとほぼ紙一重。ブレイク間近と呼ばれる彼らのネタだけでも、ゴールデンの番組として十分勝負できると思う。

 ネタ中心。この路線をキチンと貫くことができるか。今後のザ・ベストワンに目を凝らしたい。

 

 

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