スターへの匂いを感じさせた、オズワルド・伊藤の“切り返し”

 先週の土曜日に放送された「さんまのお笑い向上委員会」。M-1グランプリ2021に関わった芸人が多く集まった、毎年この時期には恒例の番組内容になる。3週にわたって放送される内容の、その2週目にあたる先日の放送。大勢の実力者たちが顔を揃えるなか、最もこちらの印象に残る活躍を見せたのが、オズワルド・伊藤俊介だった。

「いったん思い返して。最終決戦3組とも、別にそんなにウケてないから」

「大会ずっと最初から通して、俺ら(オズワルド)の1本目が一番良かったから!」

「2本目の3組が全員泥試合だったのよ」

 M-1で優勝を果たせなかったことについて問われた伊藤は、悔しさを滲ませつつも強気の姿勢でまくしたてた。優勝に値したのは自分たちだったと。錦鯉やインディアンスがいる目の前で、こうした毒を吐いたわけだ。

 上記の伊藤の台詞は、いってみれば言い訳だ。負け惜しみと言ってもいい。「錦鯉おめでとう」という感じの空気漂うなかで発した、勇気のある言葉になる。だが、僕にはそれが単なる言い訳には聞こえなかった。何を隠そう、筆者も伊藤と全く同じ感想を持ち合わせていたからに他ならない。

 M-1グランプリ2021。決勝前の下馬評で優勝候補の本命に推されていたのは、今回が3度目の決勝進出になる、オズワルドだった。決勝戦1本目のネタでファーストラウンドを首位通過。その時点ではほぼ8割方、オズワルドの優勝は堅そうに見えた。ところが、最終決戦でまさかの失速。2位通過の錦鯉に逆転を許し、悲願の優勝を逃すという苦渋を味わっていた。

 大会後、優勝コンビ・錦鯉を多くの人が称賛。大会史上最年長の苦労人とか、サンドウィッチマン以来の吉本勢以外の優勝など、とりわけ注目が集まったのは、現在に至るまでの経歴や個人のキャラクターの方だった。早い話、その肝心のネタについて詳しく語られる場面を、あまり目にすることはなかった。優勝を決めた「サルを捕まえる」というネタに対しても、世間的には「面白かった」という意見で何となく一致しているように見える。

 最終決戦3組のネタを見終わった時、正直言えば、その優勝コンビを予想することは割と困難だった。良い意味ではなく、悪い意味で、だ。インディアンスも、錦鯉も、オズワルドも、1本目のネタの方が明らかに良かったとは、その時抱いた率直な感想になる。

 だが、大会後に「今回の最終決戦はイマイチだった」的な感想を述べた人は、こちらの確認した限りではこれまで一人もいなかった。その分、向上委員会で発した伊藤の台詞は強く印象に残ることになった。

 実は最終決戦は意外にも凡戦に終わってしまった。このことはおそらく多くの人がどことなく心の奥底に潜ませていた感想だと僕は思う。しかし、それを言ってしまえば、お祭りムードに水を刺すことになってしまう。おそらくみんながあまり言わなかった理由だと思われる。

 このことを公の場でハッキリと口にしたのは、おそらくオズワルド・伊藤が初めてではないか。その演者本人でもある伊藤に言わせるのも問題といえば問題だが、溜飲が下がるというか芯を食ったというか、まさにそれは胸のすくような切り返しだった。そのタダでは引き下がらないしぶとさに、座布団2枚! と思わず言いたくなった。

 売れる芸人に必要なのはこの話術。この切り返しだ。逆転負けを詰め寄られる立場にあったその不利な形勢は、説得力の高いこれらの言い回しで、対等かそれ以上に回復することになった。この放送回で誰よりも光る存在に見えた理由になる。

 M-1の決勝に3回も進出すれば、少なくとも当分消えることはない。準優勝とくればなおさらに、だ。注目すべきは、芸人としてのポテンシャルになる。今後飛躍する可能性をどれほど秘めているかだ。そうした目でM-1ファイナリストを見れば、伊藤はその力を誰よりも備えている。有吉弘行やバカリズムなどに通じる、特別感漂う「喋る力」を持ち合わせていると僕は思っている。

 もっとも伊藤個人のポテンシャルに関して言えば、ある程度前からこちらはすでに知り得ていた。その実力の片鱗を見たのは、アメトーーク「鳥貴族芸人」(2020年4月30日放送)。アメトーークに初出演したこの回で、矢作(おぎやはぎ)を彷彿とさせるような筋の良い喋りを幾度も披露。いずれはもっと出てくる芸人だとは、その時抱いた率直な感想になる。

 この欄でこれまで何度か述べた錦鯉・渡辺やモグライダー・芝も伊藤同様に優れた話術を備えているが、彼らはすでに年齢的にはベテランの域にある芸人だ(渡辺は43歳、芝は38歳)。一方で、伊藤は現在32歳。まだ若手と言っていい年齢ながら、その実力と実績、そしてその落ち着きぶりはすでに一級品だ。5年後、10年後の姿が早くも気になって仕方がない。

 オズワルドの結成は2014年。M-1にはあと8回も出場できる。優勝するかはわからないが、今後の活躍度次第では、その評価はさらに上がる。女優である妹(伊藤沙莉)を超える存在になるのではないか。向上委員会でのあの切り返しを見ると、そう思わずにはいられない。伊藤は芸能界をどこまで上り詰めるのか。先日のアメトーーク「立ちトーーク」に呼ばれていた畠中(濃厚接触者で出演回避)も、気になる存在なのだけれど。

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