「NHK新人お笑い大賞」で完勝した、ニッポンの社長が備えるギャップとは

 昨日、10月31日(日曜日)の16時から生放送された、「令和3年度NHK新人お笑い大賞」。M-1グランプリやキングオブコントほど認知度は高くないが、かれこれ60年以上前から行われているお笑い界では歴史あるコンクールのひとつになる。

 これまで決して話題性が高くなかったこの大会に今回、筆者が注目した理由は、ひとえにニッポンの社長見たさにあった。

 今年に入ってから、筆者の中で急上昇した芸人コンビ。それが吉本興業(大阪)に所属するニッポンの社長になる。先月行われたキングオブコントでは決勝に進出。優勝は逃したものの、個人的にはかなり面白いネタを披露したと思っている。結果は4位だったが、その負け方は決して悪くなかった。

 モノには負け方というものがある。良い負け方か、悪い負け方か。言い換えれば、惜しかったか、惜しくなかったか。そうした尺度で眺めると、先のキングオブコントでのニッポンの社長は、かなり惜しかった。もし2本目のネタを披露できれていれば、その評価はもっと上がっていたと僕は思う。

 キングオブコントで惜しい敗戦を喫した彼らのネタをまた見てみたい。そうした思いで、日曜日の16時というやや中途半端な時間に、僕はこのコンクールにテレビのチャンネルを合わせていた。

 結果はニッポンの社長の完勝。本選(1本目)と決勝(2本目)ともに、審査員7名全員の票を獲得するという、圧倒的な勝ちっぷりだった。特に圧巻だったのは1本目のネタになる。これがもしキングオブコントの決勝で披露できていれば。そんなタラレバ話をしたくほど、ダントツで面白かった。比較的豪華な顔ぶれが審査員を務めていたが、審査員が誰であっても、結果は1ミリも変わらなかったと思う。

 だが、そんなニッポンの社長を讃えるほど、逆に嘆きたくなるのは、大会のレベルの低さになる。優勝したニッポンの社長とそれ以外の本選出場者との間には、ハッキリ言って2レベル以上の差があった。同じ舞台の上で戦わせてはいけない間柄のようにさえ見えた。褒めたくなるようなネタを披露したのは、ニッポンの社長を除けば、次点に終わったハイツ友の会の2本目くらいに限られる。出演者唯一と言っていい全国区のミキでさえ、その出来はかなり低調だった。その他のグループも同様。テレビで4分間も視聴するには、なかなか耐え難い出来映えだった。

 審査員たちのコメントが嘘臭く見えた理由でもある。いずれのネタに対しても、なんとかして持ち上げる言葉を捻り出そうとするその姿に、筆者は違和感を覚えた。あえて苦言を呈してあげた方が出場者のためになるであろう場面でも、審査員全員、とにかく褒めるというスタンスを一貫していた。

 大会のレベルは審査員のレベルに比例するとは僕の持論だが、それに照らせば、大会内容の貧弱さにも頷くことができる。少なくともこのコンクールで審査をした人たちの中には、今後の大きな賞レースでぜひとも審査員を務めてほしいと思えるような人はいなかった。松本人志さんやオール巨人さんのように、苦言を呈したり自分なりの意見を述べたりすることで、審査員のカリスマ性は生まれる。M-1ほど注目度が高くないこうした大会の方が、審査員はオリジナルな意見を本来吐きやすいはずなのだ。だが、そうしたオリジナルな意見、周りと異なるような感想を述べた人はいなかった。出場者の間には、相当な実力差があったにも関わらずだ。

 これでは大会の優勝に重みを感じにくい。価値が高いものに見えてこないのだ。滅茶苦茶面白いネタを披露した上で優勝したにも関わらず、出場者や審査員のレベルにより、そのネタ以上の評価を受けられない。優勝したニッポンの社長の芸人としての実力は、ハッキリ言って、大会そのものよりも高かった。審査員にも勝っていたとは個人の意見になる。

 「NHK新人お笑い大賞」で優勝したニッポンの社長だが、先日のキングオブコント2021「決勝4位」の方が、その価値は確実に高い。大会の規模、出場者、審査員など、あらゆる要素でこちらの方が断然上。同じお笑いのコンクールでも、その重みは大きく異なるのだ。

 ついでに言えば、今年3月に水曜日のダウンタウン内で放送された特別企画、「30-1グランプリ」も挙げたくなる。30秒のショートネタのチャンピオンを決定するというこの企画で、実力者たちを抑え見事優勝したのがニッポンの社長だった。出場者や審査員(松本人志、伊集院光、陣内智則、くっきー!、バカリズム)などを見ても、昨日の優勝よりも高い価値を感じる。バラエティ番組の単なる一企画とは思えないくらい、大会として良い出来映えだったと僕は思っている。

 最も価値が重いキングオブコントでは惜しくも敗れたが、それより軽い「NHK新人お笑い大賞」ではダントツの優勝を果たしたニッポンの社長。比較的相手が弱かったとはいえ、知名度で唯一彼らを上回るミキを木っ端微塵にしたインパクトはかなり強烈だった。

 「ネタといえばニッポンの社長と言われたい」。優勝後に語ったというこの辻の言葉にも、筆者は好感を抱く。まさにその通りと言いたくなる、お笑い界の発展と向上に貢献しそうな、これまで見たことがない素晴らしいネタだったからに他ならない。

 少なくとも、その辺の人気者たちより断然面白いネタを備えている。それも1つや2つではない。底がまだ全く見えていないのだ。彼らを目にするたびに、その最大値は更新している印象さえ受ける。

 その実力はすでに一級品だが、それがまだ完全には世間に浸透してはいない。今のところバレていないと言い換えてもいい。つまり、その力量と活躍ぶりに大きなギャップがあるのだ。このギャップこそ、おそらくいまこの瞬間しか拝むことができない、ニッポンの社長の武器と言ってもいい。お笑い界のダークホースとして、けっして悪くない立ち位置につけているのだ。

 昨日のコンクールでも見せていたように、思いのほか謙虚な姿勢も持ち合わせている。高い実力の割に、チャレンジャー的な意識も低くない。おそらく近い将来、「かまいたち」や「マヂカルラブリー」になれるのではないか。あるいはそれらを上回る可能性もあるのではないかと、僕は密かに期待している。

 そのブレイクはほぼ確実。あとはいつ、どのようにして“弾ける”のかに、こちらは注目したくなる。M-1でなのか、キングオブコントでなのか、あるいはそれ以外の場所なのか。とりあえず今週は、辻が出演予定のアメトーーク「SNS気にしすぎ芸人」が面白そう。出演者の顔ぶれを見ても、なかなかいい感じだ。そこで辻がどんな活躍をするのか、目を凝らしたい。

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