R-1でZAZYがお見送り芸人しんいちに敗れた理由。両者にはどんな差があったのか

 お見送り芸人しんいち対ZAZY。R-1グランプリ2022決勝は、今回がラストイヤーのピン芸人同士による最終決戦となった。3票対2票。1票差の際どい戦いを制したのは、毒のある歌ネタを武器に今回初めて決勝に進出したグレープカンパニー所属のお見送り芸人しんいち。前回準優勝のZAZYは有終の美を飾ることはできなかった。

 優勝したお見送り芸人しんいちと準優勝に終わったZAZY。そして、1本目の決戦投票で惜しくも敗れた吉住と金の国・渡部おにぎり。彼ら上位陣に、それほど大きな差があったとは思わない。1本目の1位がZAZY(464点)で、2位に3人が463点で並ぶという、数字通りの僅差だった。また、野田クリスタルが96点をつけたサツマカワRPG(5位・459点)も同様に悪くなかったと思う。出場者のネタは、少なくとも昨年よりレベルアップしていた。上位の5人は誰が優勝しても決しておかしくなかった。またその力はあったと僕は見る。

 そうしたなかで1本目の混戦を抜け出したのは、ZAZYとお見送り芸人しんいち。大会前から優勝候補と目されていた者同士の対決となった。3対2という接戦には必然性を感じた。

 ただ、結果論で言うわけではないが、その勝者は見えていた気がする。

 最終決戦の少し前。1stステージの最後、お見送り芸人しんいち、吉住、渡部おにぎりの3人が同点で並び、2位通過を決める決戦投票となった瞬間、こう直感した。「ここで選ばれた人が優勝する」と。結果はお見送り芸人しんいち3票、吉住2票、渡部おにぎり0票。選ばれたのはこの3人のなかでは一番最初にネタを披露した、お見送り芸人しんいち。投票直前にネタを見せた渡部おにぎりに票は入らなかった。お見送り芸人しんいち(あるいは吉住)をもう一度見たい。審査員はそう判断したわけだが、この判定には筆者も同感だった。ここで惜しくも散った吉住だったが、もし勝ち上がっていたとしたら、おそらく優勝できたのではないか。少なくとも僕はそう思う。

 ZAZYのネタがつまらなかったと言っているわけではない。いつかも述べだが、これは個人の趣味、好みの問題。テレビ画面越しに見る限り、ZAZYのネタはそれなりにウケているように見えた。だが、スッキリはしていなかった。雑味が多いというか、色はわかりにくかった。理解できる人には伝わるのかもしれないが、そうではない人もたぶん同じくらいはいる。俗に言う「人によって好みが分かれやすい」タイプなのだ。審査員の点数にもそれは表れている。小籔千豊は今大会通して最高の98点をつけたが、バカリズムは86点という比較的低い点数をつけている。この12点という差が、こちらの目には大きなものに見えた。

 だが、筆者がそれ以上に指摘したいのは、ピン芸人・ZAZYに漂っていた空気感だ。奇抜な格好やネタをしていても、僕にはそれがどこか苦しそうな姿に見えた。前回準優勝。そしてラストイヤーのZAZYにとって、今回はまさに「絶対に負けられない戦い」だった。目指すは優勝しかない。世間もZAZYに対してそうした目を向けていたはずだ。こうしたムードは本人にも確実に伝わる。プレッシャーはファイナリストのなかではおそらく一番だったと思う。

 強者ZAZY。挑戦者お見送り芸人しんいち。優勝を狙うZAZYにとってこの構図は、さぞ嫌なものだったに違いない。1本目の戦いを通してすでに、そうした様子は見えていた。一方、お見送り芸人しんいちの立ち位置はZAZYより遥かに楽だっと思う。有力候補と言っても、この世界ではまだ新顔の部類に入る。優勝候補ZAZYより、ネタが乗っていたのは明らかだった。

 ZAZYはたしかに惜しかった。審査員が違えば優勝していたかもしれない。だがそれでも今回はきわめて順当な結果だったと僕は思っている。もう一度最初から大会を行っても、たぶんZAZYは優勝できなかった。ZAZYが6番という絶好の出順だったのに対し、お見送り芸人しんいちは2番。最終決戦で先にネタをしたのも、お見送り芸人しんいちだ。順番的に見ても、ZAZYの方が圧倒的有利だった。運はZAZYの方にあった。だが、それでも優勝を果たせなかった。ここに僕はお笑い賞レースの奥深さというか、面白味や魅力を感じる。
 
 優勝候補は明らかにやりにくい。この差が勢いの違いとなって現れる。昨年のお笑い賞レースにもなんとなく感じていたことだが、今回のR-1を見るとその思いはさらに増した気がする。

 さらに言えば、だ。いまのZAZYがR-1で優勝を飾っても、申し訳ないが、お笑い界は驚かない。そこまで盛り上がることはない。あのサンドウィッチマンをトップとするいま勢いのあるお笑い事務所、グレープカンパニー所属の苦労人が優勝する方が、話題性は高くなる。

 〜『全力!脱力タイムズ』でうまく返せたことないロンブーの亮さん〜

 このフレーズを繰り出したときに、大袈裟に言えば、筆者はお見送り芸人しんいちの優勝を確信した。2本目のZAZYがそれこそ別人のようなネタを見せない限り、優勝はお見送り芸人しんいちだろう、と。接戦ではあったが、必然性の高い勝利だったと僕は思う。

 大会全体の出来栄えも、前回より大幅によくなった。審査員の審査もおおむね上々。やや軽さはあったものの、緊張感も程よく、偉そうな言い方で恐縮だが、十分見ていられる内容だった。昨年の反省が存分に生かされていたと言っていいだろう。

 お見送り芸人しんいちが今後どれほど活躍するかはわからないが、センスは良いので、息の長い芸人になると思う。キャラクター先行型ではない、中身がいい歌ネタ芸人の今後に目を凝らしたい。

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