キングオブコント2021。最大の関心はファイナリストより審査員の顔ぶれ。大会の優勝者はその好みで決まる
先日、ファイナリスト10組が発表されたキングオブコント2021。今回は過去の大会と比較しても、候補者はとりわけ粒ぞろい。というわけで、その当落の予想でも、大きな盛り上がりを見せていた。
ファイナリストをざっと眺めてみれば、大会のレベルはある程度読める。過去最高を更新するのではないか。と思わず期待したくなる顔ぶれだ。当選者と落選者の間に大きな差はない。突出したグループはいないが、特別落ちるグループも見当たらない。準決勝まで残っていた顔ぶれを見ればそれはよくわかる。平均点以上のグループがひしめいている感じだ。
ファイナリストも粒ぞろい。ほぼ僅差で並んでいる感じに見える。優勝候補、ダークホースとの間に、明確な差はない。賞レースで結果を残してきたマヂカルラブリー、ニューヨーク、空気階段にしても、本番で上位を占めるかと言えば、確実ではない。
そもそも、芸人の力を数字化したデータが少ないのがお笑いだ。混沌とした状況に拍車がかかる原因である。頼るものは見る者の主観。勝敗を分ける大きなポイントは、審査員のお眼鏡に敵うか否かだ。選者が変われば顔ぶれは変わる。おそらくファイナリストの3分の1程度は違ってくる。忘れてはいけないお笑いの特徴だ。
選者の眼力は、したがって成績に大きな影響を及ぼすことになる。お笑い賞レースの場合、結果は審査員で決まると言いたくなる所以だ。特にテレビで全国放送される大きな大会では、審査員のネタを分析する能力が、国民の前で白日の下に晒されることになる。審査員の判定が、結果に即反映する。
そうした意味で、ファイナリストの発表後に報じられた審査員変更のニュースには少々驚かされた。過去6年間変わらなかったモノに、突如、手が加えられたわけだ。
この審査員変更の背景は、勝手にこちらで想像するしか方法はないのだが、的外れではない自信はあるつもりなので、その方向で話を進めさせていただく。
今大会、戦前からの盛り上がりは、おそらくこれまでで一番だろう。コロナ禍も追い風になっている感じだ。国民のお笑いに対する関心は、以前より遥かに高い。そういったムードが日本中を覆っている。それに加えて、史上初の3冠を狙うマヂカルラブリーや、今が旬のニューヨークなどの存在も、話題性の高さに深く関わっている。
ザックリと言えば、今大会の結果は、過去のキングオブコントよりも確実に重い。今後のお笑い界の流れにも影響を与えそうな、メジャーイベントとなりつつある。大会を成功させることは、主催者にとって重要な義務だ。今年3月に開催されたR-1グランプリのようになれば、批判は避けられないだろう。ファンの期待を裏切るような大会を見せるわけにはいかなくなっている。
「今大会はこれまでより注目度が高い。だから失敗は許されない」。主催者側にもこうした意識はかなりあったばずだ。
「大会をよりよいものにするためには、どこをどう変えればいいのか」。主催者側が考え抜いた結果が、審査員の大幅変更だったのだろう。レベルの高い大会には、それ以上にレベルの高い審査が必要だ、と。
過去6年、審査員を務めたさまぁ〜ずとバナナマンに対して、特別不満があるわけではないが、突っ込みどころもないわけではない。松本人志さんだけを残して、それ以外の4人を変更するという判断は、個人的には間違っていないと思う。
審査には正解が存在しない。議論の余地はいくらでもある。
想起するのは3年前のキングオブコント2018。ファーストステージ9番目に登場したロビンフットの「結婚相手」というネタは、個人的にはこの大会で一番面白いネタだった。しかし彼らはトップ3には残れず、惜しくも5位に終わった。得点は462点。審査員5人の中で、最高点は松本さんの96点、最低点は三村マサカズさんの89点。5人の平均は92.4点なので、もし三村さんが92点をつけていれば、得点は465点になる。この得点が出ていれば、ファーストステージ3位・464点のハナコを蹴落としていた。つまり、ハナコの優勝はなかったことになる。ファイナルステージではチョコレートプラネットが完全に沈黙するというラッキーもあった。このハナコの優勝がお笑い第七世代の始まりとも言われるが、その優勝に多大な運が絡んでいたことは、紛れもない事実だった。
松本さんが96点を付けたコンビが、静かに5位に終わっていいのか。審査に異を唱えたくなった瞬間だった。それ以降、ロビンフットの露出が増えたわけでもない。両者とも40歳を超えるベテランコンビが、次に決勝に進出する可能性は決して高くない。その決勝進出は、最初で最後のチャンスだったかもしれないのだ。判官贔屓の筆者にとっては、ここであえて言いたくなるくらい、惜しい敗退、美しい敗者に見えてくる。
「第2のロビンフット」を出すわけにはいかない。審査員変更の背景には、主催者側にこうした考えを持つ人が、少なからずいたのではないか。
審査員各自の目線に基づくのは致し方ないが、このコンビは絶対に選ぶべきだと、選者に注文をつけることも忘れてはならないと思う。バナナマン、さらば青春の光、ジャングルポケットなど、優勝は逃しながら、後にバラエティで活躍した芸人、言い換えれば、歴代の審査員が選び忘れたグループは、過去に多々存在する。予選も含めて考えると、意見はさらに割れる。それが自然だと思う。
新しく審査員を務めるのは誰か。もちろん僕には知る由もないが、そのプレッシャーは、大会の肥大化とともに大きくなっている。今回は特に、だ。別の言い方をすれば、審査員も「審査」をされることになる。良くない審査をすれば、次回以降は呼ばれにくくなるだろう。新たに加わる4人は、ファイナリスト以上に注目を浴びる存在といっても過言ではない。
とはいえ、審査員に対してもプレッシャーがキチンと掛かっている近年の傾向は、決して悪いモノではない。審査に厳しい目が向けられるほど、審査員のレベルも上がる。審査員のレベルが上がれば、大会のレベルも自然と上昇する。お笑い界のレベルを上げようとすれば、歓迎すべき状況になる。
出演者、司会者、審査員、観客、主催者……。こうした要素からなる大会で、今回大きく変わることになった審査員の顔ぶれは、とりわけ注目に値する。実績のある芸人が務めるのか、それとも異なるジャンルからの人選があるのか。今のところよくわらないが、結果に対する比重は審査員が一番重い。大会の優勝者はその好みで決まると言っても過言ではない。なにより厳しい目を傾けるべきは審査員なのである。