敗者復活戦に眠る金の卵

・2015年 さらば青春の光、相席スタート
・2016年 和牛、ミキ、とろサーモン、かまいたち、ジャルジャル、マヂカルラブリー、ゆにばーす
・2017年 スーパーマラドーナ、霜降り明星、見取り図
・2018年 インディアンス、からし蓮根
・2019年 錦鯉、東京ホテイソン、マヂカルラブリー
・2020年 インディアンス、ゆにばーす、ロングコートダディ、ランジャタイ

 これはその年のM-1グランプリ敗者復活戦に出場したコンビで、翌年の決勝戦に進出したコンビになる。

 M-1グランプリ2021。その決勝戦の前に、優勝候補の本命に推されていたのはオズワルドだった。惜しくも準優勝に終わったが、その前評判に違わぬ良質なネタを彼らは披露した。ついてこなかったのは結果のみ。次回も期待が持てそうな、そうした可能性を感じる敗れ方をしたと僕は思っている。

 そんなオズワルドの次に優勝予想で人気だったのは、敗者復活組だった。すなわち2番人気。誰が復活するのかわからない、その勝者がまだ決まる前にもかかわらず、今回多くの人が、復活したコンビが優勝争いに絡む可能性が極めて高いと踏んでいたわけだ。

 復活したのはラストイヤーのハライチ。笑神籤によって決勝では4番目に登場したものの、優勝争いに加わることなく、その結果は9位と振るわなかった。

 ハライチの敗因はわかりやすい。ネタの仕上がり不足。これに尽きる。ネタの内容から時間配分まで、その完成度は素人目にもわかるほど明らかに緩かった。もっとも、ラストイヤーのハライチが今回本気で優勝を目指していたようには、僕にはとても見えなかった。最後に決勝でネタをしたい。新ネタが披露できれば十分。そんな感じに見えた。

 ニューヨーク、見取り図、アインシュタイン、アルコ&ピース、東京ホテイソン……。復活したハライチ以外にも、人気と実力を兼ね備える有力な候補者が今回の敗者復活戦には数多くいた。決勝前の優勝予想で敗者復活組の人気が高かった、これが一番の理由だろう。

 だが、先ほど挙げた知名度の高いコンビが今回の敗者復活戦で見せたネタの出来は、正直どれもいまひとつだったように思う。仮に復活していたとしても、少なくとも誰も優勝はできていなかった。ハライチの結果(9位)とさほど変わらなかったのではないか。僕はそう思う。

 むしろ、知名度が低いコンビの方が気になるネタをしていた。今回の敗者復活戦をざっくりいえばそうなる。テレビでの露出が多いコンビより、露出が少ないコンビの方が面白いネタをしていたと、少なくとも筆者は思っている。

 例えばマユリカのネタは、上位の人気者たちのネタよりも確実に面白かったと僕は思う。今回の敗者復活戦での6位という成績は、(全国的な知名度が)無名に近いコンビとしては上々。2位か3位でもおかしくなかったとは、個人的な見解になる。

 さや香のネタも印象に強く残っている。今回の敗者復活戦で、色んな意味で最も“馬鹿”になりきったコンビ。これまではどちらかと言えばスマートな印象をさや香には抱いていたのだが、今回のネタを見て、そのイメージは大きく変わった気がする。

 からし蓮根にも良いイメージを抱いている。ネタの質は相変わらず高かった。2度目の決勝進出の可能性はけっして低くない。将来が楽しみな、若手コンビの筆頭だと僕は見ている。

 そうしたなかで、今回の敗者復活戦で最も健闘したと言いたくなったのは、惜しくも復活を逃した「2位」のコンビになる。1位で復活したハライチに惜しくも2万5000票届かなかった、2007年結成の吉本興業所属のコンビ。金属バットは、今回の敗者復活戦で最も惜しい戦いをした。そう言い表すことができる。今回の敗者復活戦・2位という結果は、M-1における自身最高の成績。昨年3位の見取り図、キングオブコント2021準優勝の男性ブランコなどを抑えてのその結果は、考えうる最高の結果と言ってもいい。ハライチに知名度で大きく劣るにもかかわらず、あと少しのところまで追い詰めることに成功したというわけだ。彼らこそまさに美しい敗者。そんな金属バットに、テレビの前で一人拍手を送りたくなった次第だ。

 冒頭で記したように、敗者復活戦に出場したコンビからは、必ず翌年のファイナリストが現れている。平均すれば毎年2,3組。来年、それが誰になるのかは知る由もないが、この敗者復活戦に目を向けておいて損はないと僕は声を大にして言いたくなる。未来のスターはここから出現する、といっても言い過ぎではないのだ。

 だが、その答えが来年に出るとは限らない。2年後かもしれないし、5年後かもしれない。はたまた10年以上先かもしれない。それでも、全国放送されるこの舞台で良い印象を残した芸人を、そう簡単に忘れることはできないのだ。ここから将来、決勝の舞台を踏むコンビははたして何組現れるか。そして、優勝するコンビは現れるのか。数年後、この文章を振り返ったとき、お笑い界に新たなスターが登場していることを楽しみにしたい。

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