書を持ち、北海道へ行こう
最強寒波が来ているらしい。とはいえ、外はからりと晴れているわけでもないのでそれほど寒くはならないだろうから、今回も-20℃には届かないかな。と、そういう感覚を持ち合わせるようになった。最強なのだからもうちょっと下がってくれてもいいのに。
その昔、寺山修司が「書を捨てよ、町へ出よう」という短編集を書いた。
若さゆえのやり場のないエネルギーを都会に発散していく模様が描かれており、退屈をいかにやり込めるかが全編で繰り広げられている。本なんか読んでないでさ、街でもっと刺激的な体験をしようぜ。そんなメッセージが伝わってくる。
でもそんな時代を乗り越えて、逆に静けさに浸ることに楽しみを覚えるようになったら「書を持ち、北海道に行こう」というのはなかなかの選択肢。
季節はもちろん冬。なんといっても読書に都合の良い静けさがそこにはあるからね。
生き物たちはだいたいどこかに息を潜めてしまうし、さらには雪が音を吸収してくれる。
宿はぜひ、都会から離れたところを選んでみて。できれば大きな通り沿いも避けよう。
そうすると耳をすませば雪の降り積もる、小さなガラスが擦れ合うかのような微かな音さえ聞こえる、しずかなしずかな一日を体験できる。
ニューロマンサーの言葉を借りるなら、“冬寂” (ウィンターミュート)というのがふさわしい。
落ち葉の匂いや草の匂い、雨上がりのアスファルトの匂いもしない、嗅覚的にも、そしてもちろん視覚的にも静謐な季節。曇りや雪の日の朝にはコントラストが極小化されて天と地の境目がなくなり、道路の行き先はあやふやになる。ただただ無彩色に塗られた静寂の世界がひろがる。
読書をするならページをめくる音がいちばん大きな音、次に自分の息遣い。
よく温められた室内で、サイドテーブルにはチョコレートとコーヒーをお供に。ウイスキーならストレートで。ハイボールは炭酸の弾ける音が気になるし、ロックは氷がうるさいからね。スマフォの電源もこの際だから切っておこう。
ノイズを気にせず、ただただ本に没入していく感覚を存分に味わうのは読書好きにとって最高のひととき。気がつけば周りが暗くなっているかもしれないけれど、冬なら日が短いだけで寝るまでにはまだまだ時間があるはず。眠くなってきたら本を手放さずにベッドへ。本の世界の中で眠るのも贅沢のひとつだよね。
雪の降る夜だと寝静まったあとに、グワァァという咆哮とともに現れる除雪車に眠りを破られるかもしれないけれど、でもそれだけは勘弁してほしい。彼らは北国に住まう僕らのヒーローでね、ヒーロー出現とあらば効果音とともにというのは当然だろう?
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