鉄板ファイター肉玉ソバ子

「ソバ子ぉ、いっしょに帰ろ!」

快活なみっちゃんの声が、校門を出るわたしを呼び止めた。振り返れば二人の少女が手を振り、向かってくる。七月の半ば。夏休みを迎えようとしていたその日は、とびきりに暑い一日だった。

「あれ、もう部活おわりなん?」
「週末に県大会じゃけ、早上がりなんよ。せっかくだし一緒に帰ろ」

凛としたれいちゃんの声が返す。わたしがまごまごしているのを待たずに、二人はバス停へと歩きだした。みっちゃんとれいちゃん。鉄板競技部の二大エースにして、わたしの幼なじみ。

「ソバ子もおるしアルパーク寄らん?」」
「ダメよ、監督の言葉理解しとる?」
「しとるよ。だからジェラート食べよ!」
「なにもわかっとらんわ……」

明るくお喋りを続ける二人と、黙ってついていくわたし。二人はわたしに語りかけるけど、わたしは無言で頷くばかり。
どうしてだろう、二人との壁を感じてしまう。いや当然のことだ。だってわたしはただの図書委員で、二人は誰もが憧れる学生鉄板ファイター。思えば、三人で帰るのはいつぶりだろう。
もうすぐ三年目の一学期が終わる。暑い夏も夕方ともなれば少しは涼しくなる。秋茜の制服が、より茜に染まる。

ふと、陰気な男が目に留まった。
男は粘つくような笑みを浮かべて、バス停とわたしたちを遮るように立つ。
近づいては、ダメだ。
わたしの中の何かが叫ぶ。
だけどわたしの小さな声は、前を歩く二人に届かない。
そして男の叫びが、すべての始まりを告げた。

「見つけたぞ、銀のヘラ【スパチュール・ダルジョン】!」

その時、すべてが燃えた。
バス停も、電柱も、向かいのポプラも。すべてが燃え盛り、一面の鉄板を生み出した。灼熱の鉄板闘技場【アレーヌ・ド・プランシェ】が、半径十メートルを焼き尽くした。
れいちゃんがわたしを抱きしめた。みっちゃんが前に立ち、鞄からヘラを抜いた。
わたしはようやく気がついた。いまここで【鉄板デュエル】が始まったことに。

(続く)
#逆噴射小説大賞2020

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