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ランナウェイ・テイカウェイ・パンケーキフィッシュ

「最悪の状況ね」

明かり灯らぬビルの谷間、吹き荒ぶ黒き風。風を貫き光線が走る。一条は黄色、一拍遅れ、赤。
赤黄にまたたく二つの影。すらりと輝く耐光線アウターに、ひらりと揺れる耐光線外套。

「気づいた時には旧区役所一帯に広がっていた。あっという間に増殖して、私たちだけじゃとても」

黄色の光線を屈折ランニングシューズが捉える。ソールが反力を蓄え、飛ぶ。細い身体が風を割く。
背後には外套がぴたり。赤色の光線を屈折足袋で踏み、はためきながら飛ぶ。

「発生源はわからないのか?」

「発電用の燃料タンクが。ただ資料が」

二人の男女は光線を駆ける。
アイボルトが飛ぶ。二つの直線が走る。アウターの女は黄色から緑に、外套の男は赤から橙に。
ビルを抜け、都市高速の切れた街灯に立つ。数多の光線が空を走る。それは空を割く七色の網、街を囲う直線の鳥籠。

「……手遅れだな」

鳥籠の中でビルが青い炎を上げる。目を凝らせば蝶の群れ。漆黒のモノリスを純然たる青で染め上げる、「燃料蝶」の群れ。
燃料蝶は舞う。暗き地上でひときわ青く、ぱたぱたと。

「皇居ランナーがどうこうできる問題じゃない」

男は淡々と告げる。青い燐光が耐光線ゴーグルを染める。

「そうみたいね……だけど」

女が唇をきつく結ぶ。最新の耐光線サングラスが青く染まる。

「黙って眺めていられるほど、私たちはヤワじゃない」

「いいだろう、最善を尽くす」

男は屈折器を確かめる。型落ちの払下げ品だが、これで依頼をこなしてきた。合法、非合法を問わず、数々の依頼を。

「ひとつ聴いていい?」

「なんだ」

「あなた本当にたい焼き屋?」

「わからないか?」

「……わからない」

いぶかる皇居ランナーに、たい焼き屋は白い包みを投げた。包みは適度に湿り、ほのかに暖かい。

「今のうちに食え、うちのは湿気はじめが美味いんだ」

(次項、市役所職員はつらいよに続く)
#逆噴射小説大賞2019 #ビールメタル

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