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レイズ・ラインズ・タイトロープ

新聞配達は舞い降りる。
未明の街、漆黒の路地。深く切り立ったビルディングの隙間を、ひらりひらりと揺らめいて。

新聞配達は舞い降りる。
死した街、暗闇の路地。はためく耐光線外套の裾を、七色に輝かせて。

たくさんの新聞を抱えた新聞配達は、重力加速度の赴くまま速度を上げる。頭からまっさかさま、真っ暗闇の谷底へ。えんえん続く、底見えぬ谷底へ。
新聞配達はくるりと回る。空気抵抗を受けとめ、外套が円を描く。おおきな円のすきまから、二本のアイボルトが飛ぶ。

ブゥン……!

せつな、一条の光線が壁を穿つ。3ミリの直線が耐光線ゴーグルを緑に染める。
無骨な屈折手袋が光線を掴む。急減速。慣性に従い、軸をぐるりと一回り。ぱたりと外套が閉じると、新聞配達、ご挨拶。

「オハヨ」

新聞配達は手を離し、ふわりと降りる。
光線から路地まで2メートル半、緑に照らされた路地で、薄汚れた少年が待っていた。
少年はしばらく事切れたように呆けていたが、頭をふり、ぼそりと言った。

「……オハヨ」

新聞配達の頬が緩んだ。新聞を手渡すと少年は、仕事の邪魔と思ったか、五歩離れてから一礼した。配置変更から三ヶ月。週一の配達、少年の「出待ち」は皆勤賞だ。

「いつもありがとな、来週もよろしく」

新聞配達は大きく手を振り、たかくアイボルトを投げた。ビルの屋上まで、紫の光が直線を結ぶ。新聞配達は次の配達へ向かう。大きく跳躍し、屈折足袋で光線を踏む。

「ねぇ、ぼくも」

紫と緑がきらめく外套に、少年が問う。

「……新聞配達、なれる?」

振り向きざま、にやりと笑う。

「もうちょい大きくなったらな」

そしてまたビルを見上げ、一息に駆けだした。
七色の直線がまたたく。少年はずっと、その光を眺めていた。新聞配達の姿が消えても、ずっと、ずっと。

「崩壊」から二十年。世界は深い暗黒と、数多の光条で満たされていた。

(次項、地域で人気のたい焼き屋に続く)
#逆噴射小説大賞2019 #ビームメタル

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