東大数理情報の院試がレポートになった話

2020年8月に実施された、東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 修士課程の入試を受けました。この年はコロナの影響で対面での筆記試験が中止になり、数理情報の修士の受験生はレポートとオンラインの面接(口述試験)で評価されました。私が知る限りでは初の事態で、周りの人も入試をどう攻略すればいいか戸惑っていたように思います。

この時思っていたことの整理も兼ねて、受験記という形でネットの海に放り投げることにします。

TL; DR

出願までにやりたいことをよく考えておく(志望順位だけは修正できない)

質問の意図を考える;修士の新入生の選抜にはどんな能力を測るべきか?

面接内容は試験時間やそれまでの課題内容から逆算

合否はレポートと面接でほぼ決まる説

あなたはだれ

東大計数数理→東大情報理工数理情報に進学した人です。いわゆる内部進学です。「内部」とは言ったものの、入試では学部の所属で区別されることはありません(内部生でも油断してると 普通に落ちる/実際に落ちた という話を聞いたことがあります)。

過去問

この年は 書類選考→レポート課題→口述試験(面接)で評価されました。例年は筆記試験(共通数学&専門科目)でほぼ決まっていたそうです。

レポート問題はこちら:https://www.i.u-tokyo.ac.jp/edu/course/mi/admission.shtml 

「過去問題」→「2021年度大学院入試 レポート課題の公開」から見れます。

面接で実際に聞かれたことは書きません(口述試験の具体的な内容は公開されてないので、念のため)。

出願まで(書類選考用の書類作成)

第一志望になりそうな先生に話を聞きに行っていました。その先生がやっていることで興味がある内容を添えてメールを出せば、ミーティングの日程調整をして下さると思います。研究内容に限らず、研究室の運営方針(勉強会とか指導のやり方とか)も聞いておくといいかもしれません。

一度出願してしまうと指導教員の志望順位だけは修正できないので、少なくともやってることの雰囲気は自分に合いそうか見ておけるといいと思います。

また、出願受付が始まると教員には接触できなくなるので、先生方に相談があるなら早めに連絡をとっておくといいです。

レポートを解く時にやっていたこと

質問の意図を考える いきなり解こうとして解けるような課題ではなかったので、まずは質問の意図を考えることにしました。入試問題として出している以上、何かしらの能力を測ろうという意図が絶対にあるはずです。修士課程に入ってくる学生に求める能力は何か?それはレポート答案の中でアピールできないか?答案がどういう見え方をすれば高い評価をもらえそうか考えて、文章の組み立て方を決めました。

自分が解くときには、「論理的な文章が書けるか?」「数理情報学という学問を社会的価値まで含めて理解しているか?」「研究テーマについてどれくらいしっかりサーベイできているか?(もっと言えば、どれくらい多面的な考察ができるか?)」といった意図を想定していました。第2問とか第3問(研究のサーベイとコロナ)は発想の良さも見てるんだろうか?と思ったりはしましたが、それよりもしっかりしたサーベイの上で文章を論理的に書けるほうが重要だろうと思っていました。なので、斬新なアイディアを出すことにはこだわらずに、とにかく論理的に書こう、と意識していました。実際、レポートで扱った内容はそれほど斬新でもなかったのに点数は良かったので、このへんの仮説はまあまあ当たってたんじゃないかなあと思います。

解答期間1か月のうち20日くらいをサーベイに費やしていました。何か思いついたらすぐ書けるようにノートを用意して、何も思いつかなくても調べたことを殴り書きして思考の整理っぽいことをしていました。質問の意図の考察もこのノートにメモして考えてました。

問題ごとの考察・調査 第1問と第2問(基礎原理or基礎理論の説明・研究の構想)は調べた情報の多さで答案の質が決まると思います。ひとつのテーマを多面的に観察して、どういう価値があるのか/どんなアプローチがありうるか書いていくことになるので、とにかくたくさんの文献を漁りました。

調べるときには、まずは日本語の解説記事がないか探していました。機械翻訳はここ数年でだいぶ良くなりましたが、いちいち翻訳に突っ込むのには地味に時間がかかるし、たまに変な訳され方をすることもあるので。

論文のサーベイのまとめ方は自分なりに工夫するのがいいと思います。文献整理のツールとしてMendeleyがあったり、論文の要点のまとめ方として落合陽一先生のフォーマットがあったりします。どんなポイントでまとめると良さそうか考えて、相性の良いツールを選ぶのがいいと思います。自分は落合先生のフォーマットに書いてるポイントをベースにスプレッドシートにまとめてました。

第3問(コロナの問題)は新聞を読んで世間の問題意識をインプットするところから始めました。数理情報学の社会的な意義みたいな話題になってくると思ったので、まずは社会が求めていることから探るべきだろうと思ったからです。結局どの問題もサーベイ大事ですね。家に届いた新聞をパラパラめくって見出しにコロナ関係の単語があったらとりあえずスクラップしておいて、時間があるときにまとめて読んで使えそうな情報があるやつだけ保存していました。第2問で調べている研究テーマと関連した事項があれば書いておくと独自性のある答案にできるかもしれません。

作文の作法 木下是雄『理科系の作文技術』中公新書 が非常に参考になります。読みやすく明確な日本語の書き方が詳しく説明されています。第1章だけでも読んでみると得るものがあると思います。

面接(口述試験)の予想と対策

口述試験では、レポート課題と「数学基礎能力」について質問すると書かれていました(これは当時は誰でも見れる場所にあった情報です)。

レポートの話も数学の話もするには短めの時間に感じたので、数学の難しい問題は聞きようがないのでは?と考えていました。一方で、簡単な問題ばかり出されたとすると、質問に対して何も答えられないような事態になってしまえば周りと差がぐんぐん開いて命取りになります。どんな問題が来ても絶対に何かしら考察程度の情報は返せるようにするために、講義資料を広く浅く見返していました。特に、志望が高い先生方の分野は周回数を増やすなど手厚めにやっておきました。過去問は試験時間の割に難易度が高すぎると思ったので(共通数学も専門科目も)全然やりませんでした。

得点開示

8月末の合格発表で入試は決着し、10月には得点開示の請求をオンラインで受け付けてもらえるようになりました。受験票をスキャンして送る必要があたのでちゃんと捨てずにとっておきましょう。

書類選考の結果はABCDのどれかが書かれており、点数化はされていませんでした。

TOEFLは120点満点の点数がそのまま書かれてました。レポートと面接の成績は数値化されたものが書いてありました。満点は レポート:面接 = 2:1 でした。

したがって、合否や指導教員の決定順序はレポートと面接でほぼ決まっていて、書類選考やTOEFLはそんなに効いてないような気がします。もしかしたら、TOEFLの点数をそのまま足して(バランス良くなるようにレポートと面接の点数のスケールを決めて)るのかもしれません。今年(2022年入学の入試)はまた問題構成が変わるようなので、あまり参考にならないかもしれませんが。

時系列で振り返る

最後に、入試関連の出来事や自分の行動を時系列で書いておきます。

2019年05月 TOEFLを受ける。点数が良かったので院試にはコレを出すことにして英語の対策は終わりに。

2020年03月 コロナ大流行。講義のオンライン化は正直助かったが院試どーすんの?と疑問に思う。

2020年05月 入試のオンライン化が発表される。研究科全体で対面での筆記試験が中止、数理情報はレポート課題が出題されることになった。週1回の実験(この年はみんなオンライン)が院試の愚痴大会と化す。

2020年06月 出願。月末にレポート課題が出題される。

2020年07月 思い出したくない レポート課題の締切。院試に落ちたら就活するか…と思っていたので応用情報の試験に申し込んだりしていた。落ちたときどうするかの話は受験生にとっては縁起の悪い話なので詳しい話は別記事で書きます(余力があれば)。

2020年08月 思い出したくない2 口述試験を受けて受験終了。第一志望で受かってても落ちててもおかしくない感触だったので、教務課の方に落ちたあとの自分の動き(1年間休学→22年3月に学部卒で就職)を伝えて休学の面談をセッティングしてもらうなどした。計数にいる人であれば、落ちたときのことは試験が全部終わってから考えれば十分間に合うので、試験が終わるまでには受かることだけ考えておくのが良いと思います。月末の合格発表で入試終了。

2020年10月 成績開示をオンラインで受け付けてくれた。

2021年03月 入学手続きをして情報理工の学生の身分を手に入れる。院試関連のイベントはこれで完全に終わり。

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