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創作覚書  チラシ

昨年から取り組んでいるゼロカーボン演劇の流れで、今年もその方向性でできる取り組みを検討してみている。

自分たち規模の劇団だと衣装、美術となる大道具小道具は基本的に使いまわしているので、無駄は廃していると言える。大量のセットを組んで、それを使い終わったら捨てるなんていう思考は最初から持ち合わせていないので新たな取り組みとしては捉えづらい。

現段階で取り組めるとしたら、公演にまつわる案内を行うときのチラシにまつわる資源、扱い方の問題、それから移動に関するエネルギーの問題が挙げられるかと思う。

今回はチラシに関して。

公演を行う時に必ずチラシを作って宣伝する。
表現者それぞれにいろんな考え方があれど、自分の場合はこのチラシから芝居の一部が始まっていると考えている。だからそのビジュアルは常に重要だし、その存在意義もそこそこでかい。

しかし、チラシそのものの資源に関して、それから扱い方に関して、あまり最善を選び取れていないという感覚も大いにある。
印刷物を刷る時に選ぶ印刷業者は、大抵の場合安くて上質に仕上がるところを求める。インクのことも考えないし、紙のことは多少しか考えない。あまりに安価で過重労働の噂があるようなところには頼まないが、それでも安いところを目指す。
さらにそのチラシの扱い方に関しては、できるだけ広くばら撒くことになる。実際はその行き先や効果は計りずらい。そもそもチラシの一枚一枚に託された仕事はイメージのすり込みであって、いかに街の至る所で、もしくは折り込みチラシの中で受け取った人に印象を残していけるかということになっている。だから鼻から大した効果は期待していない、ということにもなりかねない。
そのためにチラシを数千部も刷ることをすんなりと合意することはなかなかできない。
毎回もどかしい思いをしているし、僕らの拠点とする街松本市の場合と、この春公演をしようとしている東京都だと話が違いすぎる。松本だとチラシ500枚でも成立するようなところ、東京だと数千枚、1万枚の桁で必要ともなってくる。そのどこまでが必要でどこからが無駄なのか、真剣に考えるとなかなか大きな課題であることがわかる。

チラシは宣伝材料としてやはり外せない。その大部分をネット上に置き換えることは技術的にはできるが、気分としてなかなかすぐにできない。ネット上で流れていく情報の中で、公演情報を定着させられるだろうか?
そのためのweb広告サービスを利用するということもできるが、試したことはない。

ゼロカーボン演劇を進めていく上で常に理想と現実、得られる価値観と残したい実感の齟齬というものが発生する。

今回の場合は、紙の心地よさとか、紙で得られる情報の伝わりやすさ、という部分で外せない価値があり、本気でゼロカーボンを推進していくとしたら無駄な資源を省くという意味で紙のチラシをやめたり、もしくは受注生産的な新たなシステムを作ったり、ということでテコ入れを行うことは全然あり得る。その為には楽しさや好奇心が必要で、その方法を考えることになる。

そんなことを考えながら、紙そのもの、それからインクそのものを自分たちで得られる資源(廃材)から作って独自のチラシを生産できないだろうか、とか考えていた。

牛乳パックから紙を作る>>>
https://hoiclue.jp/800001760.html

煤から墨を作る>>>
https://www.rikelab.jp/post/4800.html

インクのことは調べるとなかなか興味深かった。
現存のインク、カーボンブラックは、化石燃料を不完全燃焼させることで生産しているらしい?
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/carbonblack/product/1200307_7148.html#:~:text=カーボンブラックとは、炭素,ファーネスブラック)しています。

さらに、現時点では法人向けではあるものの環境配慮した紙やインクを使用できる印刷会社の存在を知った。
https://www.kousoku-offset.co.jp/environment/?fbclid=IwAR0YwP6Dis7_-PCKks3EiaX1bLAVMnZ2I5XQWuSaiJaBCGkvyuoMGLC6MwI

チラシにしてもそれ以外のことに関しても、自分たちで新たに作り出すものに関してはその責任を負いたい。
負えるような知識や視野、情報、キャパシティが必要である。

今回の創作において、個々の課題をどこに着地させていくかはまだ未定だし、今後もそのバランスを図り続けることになる。
現実問題として、環境に配慮したものを選ぶことのは相応のコストが発生するので余裕がないとできない、という悲しさもある。
同時に現前の課題を凌駕するシステムやテクノロジーの誕生も同時に起こっている現代で、正解はない。試すしかない。

この辺りの考察をしていたのが、この記事を書くおよそ1ヶ月前のことで、現在はと言うと、”デザインや質感にこだわった自分たちで良いと思えるチラシを作ろう”というところに収まっている。
これは外向きには今までとなんら変わりはない。
ただ、そこに至るプロセスとしてこの記事を書いている。
この判断に帰着したのには要因があるのでそのことを書き記しておく。

チラシのことに関して、もっと現場の声が聞きたいと思ったので関東で演劇関連のチラシを扱っているネビュラエンタープライズの永滝陽子氏に話を聞いた。
僕らが考えていることは予想も含むし、日々チラシに直に触れている業界の方々が感じているリアリティ、対策、クリアしていることなどがあるはずで、そのことに関して聞きたいと思った。
永滝さんとは昨年2023の第13回せんがわ演劇コンクールで審査員をされていた関係で知り合った。

ネビュラエンタープライズ:
主に関東で上演される演劇関連のチラシを劇団(主催)側から依頼される形で各公演に対して折り込みサービスを行なっている。また、登録者の趣味に見合ったチラシを定期的に届ける「おちらしさん」サービスを運営。基本的にチラシを受け取る側は無料で、配りたい側が料金を支払う。
https://nevula-prise.co.jp/

チラシを作っているわけではないにしてもチラシ屋である。
日々接しているチラシ、その資源に対して上記の違和感に関しては直ぐにリアクションをとっていただけたし、さらにその現場の感覚、施策に関して聞くことができた。
私たちが想像している以上に、チラシの資源、また作業量や労働力の負荷に対して、既に対策されていることが多くあり、チラシの配り方や扱い方と言う観点で取り組めることが大いにあることがわかった。

まず、チラシ折り込み代行サービスでいくと、web上で関東近郊の舞台情報をほぼ網羅し、折り込み先の観客の男女比や客層、芝居の内容を掲載している。新たに折り込む側は、それを見て自団体の作品との相性を判断しながら折り込み先、部数を選定できる。

https://seisakuplus.com/orikomi/

つまり闇雲には折り込まない。
さらにその折り込み部数は1部単位から設定できるというからすごい。

さらに、折り込んだ後、劇場で置いていかれたチラシや余ったチラシは大部分を自主回収し古紙回収に回しているとのこと。そのために各劇場を回収して回るという。

つまり、配る枚数もできるだけ無駄を減らし、余ったものは古紙回収へ。
それでいくと、”観客が持って帰る”というところまでを業務だとしたら、出来るところの無駄はほぼ廃しているといえる。

その一方でチラシってそもそも必要なのか論争もあるにはあるらしく、
コロナ以前に電子チラシの波もあったがそこまでの広がりは見せていないとのこと。
やはり現状の感覚的には紙のチラシの方が多くの人がしっくりきている印象。

永滝さんの話で印象的だったのは、チラシ、もしくはその他の業務で舞台制作のお手伝いをする仕事に従事されている中で、チラシその他の媒体を使って誰かに情報を伝える、その伝える行為やそこにかける思いや工夫、紙の手触りや質感、デザインは、表現の一部として、必ずしも無駄ではなく、豊かさとして残していっていいのではないか、という話。
それが、知らせる、伝えるために必要な努力。
紙や移動にかかるエネルギー、その他の負荷を一概に無駄として排するよりも、より良いものができるだけ届くように思いを込めて作るというところを信じていられるならば、実行する意義はある。
ゼロカーボン、燃焼を抑えることを極めすぎると何もできなくなってしまう。動かない、家にいた方がマシだ、と考えた昨年のジレンマに話が通ずる。
それでもできる方法を考える。常に今いる地点や今後残す痕跡のことを意識し、知る努力をしながら、続けていく工夫をすることがおそらく今必要なこと。

そんな話を聞き、今回はチラシを今まで通りに作ることにした。
金銭的に余裕があればインクや紙も試したい。
2024、2月の判断。
今後もきっと変化しながら、見極めつつ、根底で変わらないことは丁寧に作ること。

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