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NASAの技術者に聞いてみた。「アメリカの大学はお金を払うだけの価値があるのか?」

ホームパーティシーズンは、アメリカに関する情報収集するチャンス!

11月24日のアメリカは、サンクスギビングデー!ということで、ホームパーティを掛け持ちしてきました。ホームパーティの楽しみといえば、いろいろなお料理(時には多国籍)が楽しめるだけではなく、普段の生活で出会えない人と話ができることです。さらに、ご招待していただいた方のお友達が集うということで、”会話して大丈夫な領域”が推測しやすいというのも、普段、気になっている疑問点を解決できるかもしれないというワクワク感につながっています。

え?夫がアメリカ人だったら、夫に聞けばいいじゃん?

と、思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとってアメリカの疑問点を最も聞いてはいけない人がその夫なのです。「アメリカって素晴らしいだろ?」ということをプロモートしたいのか、なんだかわからないのですが、「え?なんでこれがNGクエスチョンだったの?」ということは多々あります。例えば、先生の送別会が”ちょっと良さげな場所”で行われるときのドレスコード。それを聞いた途端、「ここは日本じゃないんだ。着たいものをみんなが着る自由がある。ドレスコードなんて気にするなんて、日本人だけだ!」と怒り出す・・・全く意味不明です。ちなみに、当然ながらアメリカにだってドレスコードはあります。夫ももちろん知らないわけではないのですが、”自由なアメリカ”から少しでも外れたイメージを持たれることが嫌なんではないかな・・・というのが私の推測です。

もちろん、夫以外だったら、誰でも何でも尋ねていいというわけではありません。「アメリカ人はディベート慣れしているから、激しく意見をぶつけ合っても、その後もフレンドリーに付き合える」というのは都市伝説です。自分より下だと思っている人に言い負かされることが嫌と感じるのは、万国共通。”質問する”という行為も、アメリカに対するある事象について疑問を持つことから生じるものだということを考えれば、ディベートに発展する可能性のあること。だから、”迂闊に質問するとキケン”というのも、何度も痛い目にあった結果、学んだことです。

というわけで。今回のホームパーティでも会えることを期待していた人に尋ねようと、少し前からため混んでいた質問をいくつかぶつけてみました。

理系エリートに聞いた、アメリカの大学についてのアレコレ

超高額有名私大は、授業料に見合った価値を提供してくれるのか?

アメリカの大学の授業料は、州立、私立問わず、日本とは比べられないほど、かなり高額です。アイビーリーグ(超有名私立大学)になると、年間授業料だけで6万ドル(1ドル100円計算で、600万円、1ドル150円計算で900万円)くらいします。念の為、年間授業料です。4年間で卒業しようと思えば、4倍。入学も、卒業の難しいアイビーリーグになると、6年で卒業する人も少なくないようですが、そうすると、年間授業料の6倍!4年間で卒業できた場合でも、授業料だけで、軽く2千万円は超えると言われているのがアメリカの大学の授業料です。

それでもなぜ大学に行くのか?といえば、超学歴社会のアメリカでは、これくらいの借金をしても、卒業すれば、給料の形で元が取れるという試算があるから。

・・・ということはわかっていても、疑問だったのは、”給料に学歴加算される”以外の部分で、この投資はペイできるのか?ということ。特に高額な授業料が必要となる私立の大学は、州立よりも、その分、良い価値(学生のサポートや授業の内容)を提供してくれるといえるのか?という点です。

何だかアメリカの私立大学にケンカ腰な姿勢であるように思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、逆です。そもそもこのような疑問が生じた背景には、いくつかの私立大学の見学や説明会を聞いて、「私立大学も良いかもしれない」と思ったことがあります。

そこでこの疑問をぶつけてみたのが、NASAに勤務中のエンジニアの方。それまでも何度かお話したことがありましたので、人となりはわかっています。人選や言い方を間違えれば、かなり不味い質問である自覚はありつつも、慎重にこの疑問をぶつけてみました。彼の答えば、「あると思う」ということでした。ちなみに、今回はあくまでも1人のアメリカ人の個人的な意見です。

まず、大前提として、アメリカの大学が超学歴社会だとしても、日本と違うのは、卒業した学部や専攻が重視されるということ。

「たとえば、ハーバード大学だとしても、歴史学を専攻していれば、ビジネス界では有利に扱ってはくれないかもしれない。大学ではなくて、自分が学びたいことがどの大学が良いのか、リサーチすることが大切」

これは聞いたことがあるなと思いました。ただ、このリサーチには一手間必要です。アメリカの場合は、何かの事業に成功した卒業生がドカンと寄付を行うことで、その学部の教授陣や施設が充実して、大学としては無名でも、その専攻のレベルだけが突然、注目されるようになることがあるそう。テキサスにもそのような大学があり、NASAの従業員にもそこの卒業生が多数在籍しているとのことでした。

「確かに彼らはとても優秀。ただ、MIT(マサチューセッツ工科大学、名門私立工科大学で、ノーベル賞受賞数はハーバード大学の2倍くらい)の卒業生と仕事を一緒にすると、すごい知識を持っていると思うことが度々ある」。

ということで、この章にある質問「超高額有名私大は、授業料に見合った価値を提供してくれるのか?」に対する彼の答えは、YESということでした。

大学はビジネスである

先ほどの彼の回答は、あくまでも体験ベースにした彼の考えです。しかし、それを裏付けるようなこともあると言います。一言で言うと・・・。

大学の運営も、ビジネスであるということ。

つまり、顧客満足度アップは欠かせないのです。一度入学した学生が新しい学生生活に馴染め、2年生に進級でき、無事に卒業できるかどうか?については、大学にとっての重要なマーケティングデータとなります。
(*アメリカではリテンション率として、2年次進級できる学生数の割合が、卒業できる割合と同様、重視されています)。

私立大学は、ここでの成果がより重要になりますから、学生のサポートにも力が入ります。実のところ、私が「私立大学もよいかも」と思った理由が、この充実した学生サポートでした。私自身、親元を離れて大学に通った学生ではあったのですが、いざ、親の立場になると、子どもが親元を離れ、大学に通うと言うことを考えるといろいろな不安がよぎります。大学が子どもたちが1人で頑張れるサポート体制があると聞くと、安心します。

そして、この手の私大は、卒業後も卒業生のネットワーキング(交流)の促進にも熱心です。同窓会組織への投資と思うと、卒業後に困ったときに頼れるネットワークがあるのは、心強いのではないかとも思いました。そのことを話すと・・・。

「でしょ?だから、私立大学の学生サポートは本当に充実しているんだよ。生活やメンタルケア面だけのケアだけではなく、この学生サポートは、もちろん、学習面にも及んでいるんだ」。

念の為、この学習面のサポートは、一部の日本の大学が大学の勉強についていけない学生のために、中学くらいの勉強から補習を提供している・・・というのとは全く異なります。ここは、”アメリカの大学は卒業が難しい”と言われる部分にもつながるところですが、一般的には、大学が要求した水準以上の学問を修めた人にしか、卒業が認められないという前提があるので、そこまでのサポートをしていくということのようです。

ただ、F大学がKKに行った個人授業のような補講的なサポートも体制についても、マーケティング的にありだと判断されれば行われるでしょうから、この学習サポートがどんなものか?の理解は、あくまで一般論です。

一方で、大学としての価値を高めるためには、高い水準の研究成果をたくさん出していくことが重要です。

「個人的な意見だけど、研究成果担当と、教育担当は、別の教授が担当していると思うんだ。それを大学全体としてみると、『高い水準の研究結果と、能力の高い学生を輩出している大学』となり、助成金や寄付金が集まりやすくなるし、良い学生も集まりやすくなるから・・・。ほら、大学もビジネスだからね」

これでいろいろ繋がったと思ったのは、とあるアメリカの理系の学部長や学長が自分の専門以外の、マーケティング力なのか、プレゼンテーション能力なのか、ビジネスの領域でも優れた方だという印象を持ったことがあったからです。

学歴(名称)を上手く使った転職活動を行なっている卒業生も、学生時代に身につけた専門性やネットワーク力をフル活用している卒業生も、適度にいろいろ活用している卒業生も・・・。いろいろなケースがあっても、支払った授業料に見合ったものが期待できるというのは、確かなのかもしれません。すべて最後は本人しだいという前提があった上ですが。

これからの時代、何を学ぶべきか?

科学技術の開発速度が年々上がっていることを示した、ムーアの法則があります。
インテルの創業者ゴードン・ムーアによって1965年に予測されたもので、”技術の進歩により半導体トランジスタとICの集積密度が今後18~24ヵ月ごとに倍増する”とされました。この倍増劇は、いつかは限界が来ると言われていたものの、50年以上経った今でも、この法則は通用していると言われています。最新と思った技術が数年後には使えない技術になっている可能性もある時代なのです。

これと似たような現象で、文系目線で知っているのは、専攻としていた国が突然崩壊した時に、専門家はどうするのか?ということです。ソ連崩壊後、社会主義についての研究をしていたとある教授は、「社会主義はなぜ失敗したのか?」という研究に切り替えてサバイブしているようでした。文系の場合には、このような応用が効くように思うのですが、理系の場合はどうなのでしょうか。私自身が超文系だけに、理系の専門分野というのが応用が効くものなのか、とても気になっていました。

「専門は自分が一番、学びたいものを学んだ方がいいと思うよ。第一に、何を選んでも、勉強は大変だから。そして、どの専攻を選んだとしても、多かれ少なかれ新しい技術は出てくるもので、それを学び続ける必要があるのは、どの分野でも同じだから」。

これは超文系でも同意です。
そもそも私がアメリカの大学に疑問を持ったのは、知識のアップデートをしないMBA卒業生たちと仕事をする機会が何度もあったからです。
例えば、すごいマーケティングだ!として披露されたものが「えっと、それはトヨタのヴォクシーの「父になろう」的な戦略?」。それに会話が行われた当時は、トヨタはすでにモビリティの会社になるという宣言をしていた時期でしたし、業界問わず、事業ドメインの再定義が求められていた時。同じトヨタをまねるのであれば、どちらかといえば、最新のトヨタの戦略に倣った方が良いのでは?っということもあり、「きっと彼がMBAを取った頃のトヨタネタでずっときてるんだろうなぁ」と。これは結局は、その人次第ということに行き着くのだと思うのですが。

ちなみに、アメリカのビジネスが大好きな日本のビジネス業界ですが、アメリカのビジネス業界では、トヨタに注目する人は、少なくないようです。KAIZEN(改善)というトヨタの手法は、もはや英語になっています。個人的にはホンダ派ですが、トヨタはそれくらい世界的に注目されている企業。それ故に、「トヨタには勝てないから、ゲームチェンジしちゃえ。電気自動車なんていいんじゃね?」みたいな勢力があるようにも思います。

本題に戻り、文系、理系問わず、大学卒業時の知識やスキルだけではなく、常にアップデートが必要というのは、納得です。しかし、そうはいっても、超文系的な発想だと、どうしても理系分野は、テクノロジーが変わっていくという部分のアップデートがうまくいくのかについては、まだ心配がありました。そんな心配を一瞬で取り除いてくれたのが次の一言です。

「目の前にあるテクノロジーがどんだけ変わろうとも、その基本となる数学や物理の知識は変わらないよ」

数学や物理の法則は、何百年、何千年と変わらず同じもので、そのベースがあった上で、自らの専門分野を学んでおけば、目の前に見える技術が変わったとしても、根本が同じものなのだから、問題が生じるようなことはないとのことでした。これはもう「確かに」です。そして、衝撃だったのは、次の一言。

「だからこそ、学生が電卓を使うのは、本当はお勧めしないんだよね」。

そんなにいろいろな人に問いかけたことがあることではないですが、中学生や高校生が電卓の使用を勧めないアメリカ人に初めて出会いました。エンジニアとしての彼は、現在のアメリカ人学生の代数力の低下に問題意識があるようです。これはきちんと自分で調べられたことではないのですが、代数が難しすぎて単位を落とすマイノリティが多いので、人種的な配慮から、高校で必須科目とする代数の難易度を落としたという話は聞いたことがあります(これも聞いてみればよかった・・・と)。高校生用の電卓として、代数の計算を解いてくれる電卓が販売されています。テストの持ち込みもOKで、テキサス州の場合は少し制限があり、テキサス州が承認した電卓のみ、テストへの持ち込みが可となっているようです。

「電卓は便利だから、絶対に使ってはならないというわけではないけど、数学の基礎を学んでいる段階では、自分で計算することが重要。計算方法をきちんと理解していないと、テクノロジー(電卓)が手元にないと計算ができないということになってしまう」

最後の一文は、その後の会話の中から推測できた補足をすると、テクノロジーが重要だと考えている彼だからこそ、テクノロジー依存になるのではなく、あくまでも軸は自分に残しておくべきと考えているように思いました。

ちなみに、この質問に対する、テスラーやスペースXのイーロン・マスクの回答は「物理」でした。結局、基本が重要という点では、今回話を聞いた、NASAのエンジニアと同じようでした。ただ、イーロン・マクスの方は、インタビューが遮らなければ、いくつもあげるつもりだったようで、その1つに「歴史」もあったのが印象的でした。イーロン・マスクの、”次の時代”を切り開く原動力やアイデアになっているのは、歴史を理解していることにあるのではないか?とも思ったのですが、どうでしょうか。

親として、子どもの専攻を選ぶときのアドバイスは?

「さっき、大学では自分が学びたいと思うことを学ぶべきと言ったけど、それは好きなことを学べばいいというのとは少し違ってね。息子は自分と同じ道に進もうとしているんだけど、実は、息子はエンジニア向きじゃないと思っている」。

エンジニア向きではないとはどういうことか?というと、彼の息子はクリエイティブな性格で、それ故にエンジニアとして働き出した時に、本人が辛くなるのではないかということでした。

それって、10という製品を作るために、1、2・・・と作っているうちに、「やっぱり10.5の方が面白いのでは?」とか「いや、Aを作りたい」とか思っちゃうこと?

と、尋ねると、「それそれ!」と大爆笑されました。それでは、その職業の先輩として、息子さんに何かアドバイスをしたか?といえば・・・。

「高校での勉強を通して、本人が気がつきそうなんだよね。やっぱり向いてないかもって。だから、本人に任せようかなと思ってる」。

このセリフについて、いくつか補足があるのですが、まず、アメリカの高校では、”選択科目”が充実していて、職業的なもの、専門的な科目も用意されています。中学から上級クラスの授業をクリアしてきた学生は、高校で、大学、または短大レベルの授業を受講することができ、また、テストにクリアできれば、短大等で取得する資格も高校生のうちに獲得できることができます。

おそらくこのような選択科目を学びながら、向き不向きについて、本人自身が考えているのだと思います。ちなみに、アメリカの大学では、途中で専攻を変更するということも可能で、5年生、6年生となっている人の中には、専攻変更により認められなかった単位があり、卒業が伸びたという人もいるようです。一方、私が見学した私大の中には、「うちは途中で専攻変更しようとしたときに、(変更の度合いにもよるが)比較的元の専攻の単位も認められやすい仕組みになっています」というところがありました。こういうことを考えても、就職先で、”専攻”が日本よりも重視されていることがわかります。

アメリカの教育に対して、批判的なコラムの多い私ですが、この高校での選択科目の多さは、とても良いポイントだと思います。テキサスの高校では、スペイン語スピーカーの多さから、高校での外国語の選択はほぼほぼスペイン語の一択ですが、大規模な高校やアジア系が多い地域では、中国語やドイツ語、フランス語の選択も可能なそうです。日本語を外国語として取り扱っている高校が全米にどれくらいあるのかわかりませんが、授業が開講されていないところでも、日本語の所定のテストをパスすれば、外国語の単位として認められる(外国語の授業は受けなくて良い)ようです。子どもたちには一度、この制度について紹介したのですが、ふたりとも「日本語のテストを受けても、スペイン語を勉強したい」ということで・・・。

狭き門より入れ

っていうし・・・ひたすら「頑張れ!子どもたち(涙)」と思ったものです。

高校生をもつ、アメリカ人パパ&ママの意見

他にも同年代のお子さんがいるママ、パパとお話する機会がありましたので、アメリカの大学に関するいろいろな意見をまとめてシェアさせていただきたいと思います。

  • 学費を心配して、働きに出るママもいるけど、私は子どもが巣立つ前の重要な時期だから、可能な限り、子どもと一緒に過ごす時間を作った方が良い。(その場合の学費は?が次)

  • 学費は親が与えるのではなく、子どもが学生ローンを組む方が絶対お勧め。私の知り合いに、親が全部出してあげた家庭が何軒かあったが、学費にいくら掛かっているのか?実感の湧かない子どもは、真面目に勉強することなく退学してしまった。結構、そういう子はいる。学生ローンを組むということで、自ら返済しないといけないという危機感が生まれる。それが大学での勉強に力を入れさせるモチベーションとなり、やがて良い仕事を見つけようという気持ちにつながる。もちろん、子ども自身がどうしても返せないような状況になったら、親が出せばいい。学生ローンは他のローンよりも金利的にお得ということもあるし、親が助けるのは、本当に困った時だけにした方がいい。

  • 子どもが高校生になったら、厳しくても、そろそろ現実を教えるべき。例えば、この専攻をしたときに、考えられる職業は何で、期待できる収入は何か?ということも。学びたいことを学ぶのは、良いことだけど、文学を学んだ人が金融機関で良い収入を得ようなんてことはなかなかできない。どうしても学びたいなら、副専攻として学べば良い。主専攻は、将来なりたい職業から逆算して考えるべき(ほぼ同じ意見が2人)。

  • スポーツは奨学金につながることもあるかもしれないから、高校で頑張っておくべき。

  • 高校での課外活動(スポーツ)に力を入れるためには、そのスポーツがシーズンを迎える時期に難解な授業を取らないようにするのがベスト。上級生に聞いて、楽に取れる授業を中心に選択科目を組んでいる。

  • 私大を希望するのであれば、ダメもとで大学と学費の交渉をするべき。奨学金等が見つかるかもしれない。

  • 大学でもスポーツを続けたいのならば、良いコーチを見つけ、個人レッスンをつけることが最優先だと思うので、クラブチームに所属するのほかに(この所属費だけで数十万はかかる)、週1で個人レッスン(1回6千円程度)を受けている。経済的に楽ではないが、できるだけのことはしてあげたい。

  • 退役軍人の子どもであれば、授業費が無料になる大学がテキサス州内にもあるので、子どもたちにはそこを勧めている。それ以外の大学に行くなら学生ローンを組むなり、自分でなんとかしなさいと言っている。

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