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英国公衆衛生庁のデータから読み解く!デルタ株とワクチンの関係

【前置き】アメリカでは新学期が始まりました(地域によって異なるのですが、8月の中旬〜下旬に新学年となります)。その少し前から、ワクチンやマスクをめぐる論争が一層過熱化され、対立もひどいことになってきました。特に一部のワクチン推進派は、「コロナが収まらないのも、変異株が猛威をふるうのも、ワクチン未接種者の責任!」と。どこぞやの知事も「責めるべきはワクチン未接種者!」とヒステリックになっていましたので、メディアや一部の政治家、科学者の意見しか耳にしていない一般の人がそう思ってしまうのは仕方がないことかもしれません。というわけで、こういう時には、実際のところ、どうなの?のデータを見てみることが良いかと思います。

英国のコロナ情報アップデート

英国公衆衛生庁のコロナ情報のアップデート「SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England」の8月6日版(2021年7月23日までのブリーフィング)でデルタ株とワクチンについてのデータが公開されていました。元データは下記の通りです。表が2ページに渡っていましたので、2ページ目にきていた一番最後の列だけ追加しましたが、それ以外はいじっていないそのままのデータです。

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表ではワクチン接種状態を回数と接種後の日数を含めた詳しいものになっていますが、単純化するため、2回目が完了した状態と未接種の2つを比べました。また、イギリスの医療システムがわからないため、重症化の目安として、救急医の診察を受けた中で入院した数を使いました。「デルタケース」を「患者数」と訳していないのは、イギリスでのPCR検査の状況がよくわからないため、偽陽性が含まれている懸念があるため、診断された数としています。

接種完了者と未接種者、デルタ株の感染状況

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感染リスク

Deltaと診断された数は、ワクチン未接種者は接種完了者の3.21倍と、確かに多いです。現時点では、ワクチンは感染のリスクを軽減しているというのは、本当のようです。ただし、米国マサチューセッツ州で発生したクラスターでは、感染者の74%がブレイクスルーケース(接種完了者が感染すること)であり、CDCはこのデータを持って、ワクチン接種者もマスク義務化へ再度舵切りをしたケースもあります。この点については、別のコラムで検討したいと思います。

では、「未接種者がウイルスをばら撒いている!」という主張は、正しいのでしょうか?英国公衆衛生庁のレポートでも、マサチューセッツ州のレポートでも、感染者1人あたりのウイルス量は、ワクチン接種の有無に関わらず同じ量ということでした。「ウイルスをばら撒く」という表現がどうか?ということはさておき、ワクチン接種の有無に関わらず、感染すれば他人にうつしてしまう心配があるため、接種者も未接種者も、感染懸念がある場合には、適切な行動が求められます。

さらに、ワクチンによって感染時のウイルス量が減るわけではないということで、集団免疫は無理だろうという話も出ています。推進派の科学者、政治家らは「ワクチン接種のメリットは重症化・死亡リスクを軽減すること」と断言しています。いまだに「未接種者がコロナを広めている」という人がいれば、情報のアップデートができてないんでしょうね。

入院リスク

それでは入院リスクを軽減する効果については、どうでしょうか? このリスクを見るときに、単純に実数で、2.2倍のリスクがある!という方がいらっしゃいますが、私はここは割合で見るべきだと思います。というのも、ワクチン接種のメリットは、「感染しても重症化しない」ということだからです。未接種者という”他人”の多くが重症化しているかどうかということは、接種者にとって本来、関係のない話です。そもそも感染者数の母数が違うのだから、入院のところの数字はその影響を受けているというのは当たり前のことです。疾患の深刻さを説明する際に使われる致死率も、一定期間中に当該疾患の患者総数に対する死亡者数の割合を計算します。

推進派の人に「好きなように数字を弄るな」と言われたのですが、「母数(感染者数)が違うもの同士を比較する際に、こういった計算をするのだと小学校の算数の時間に学んだ記憶があるんだけど、違った?」という言葉は飲み込みました。

Deltaと診断されたケースのうち入院した割合を見ると、ワクチン接種の有無がほとんど影響していないことがわかります。それどころか、ほんのわずかではあるものの、未接種者の方が0.04%低くなっています。入院して治療を受けている人数は、未接種者の方が多いものの、現在の定説である「ワクチンが感染した際の重症化リスクを防いでいる」というのは、断言できないのではないかと思います。

死亡リスク

致死率も、ワクチン接種と未接種とで、ほとんど変わりません。しいといえば、未接種者の方が0.69%リスクが少ないくらいです。それよりも注目していただきたいのが、死亡者数については、ワクチン接種者402人に対し、未接種者は253人と、死亡リスクは実数でも、ワクチン接種者の方が高いという結果に。

これに対し、「ワクチンは高齢者や慢性疾患のある人等、リスクの高い人から接種しているのだから、リスクが高い人が多いワクチン接種グループの致死率が高いのは当然」と解説している人がいました。実際はどうでしょうか?

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ブレイクスルーケースで、50歳未満は25万人、50歳以上は21万人とほぼ同数。イギリス国内全体でのワクチン接種者の年齢別の内訳はわかりませんが、このデータではブレイクスルーデータがほぼ同じであるため、「ワクチン接種者の致死率が高いのは、ワクチン接種者の中にしめる高齢者の割合が高いため」という説明は少し苦しい感じがします。

さらに、ここで活用できるのが、先ほどと同じ”割合”での比較です。

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この統計からわかること:

1)「ブレイクスルーケース(2回接種済みだが感染)は高齢者中心に起こっている」説があるが、このデータでは、この説は疑問符。
2)50歳以下の致死率は、未接種者の方がやや低いが、接種の有無によらず、0.1%以下(0.3-0.5%)程度
3)50歳以上は2回のワクチン接種が感染時の死亡リスクを4.09%下げる。
4)ワクチンは入院リスクを50歳以上で5.7%下げ、50歳以下で0.4%下げる。 5)「デルタでは、未接種の若者の入院(重症化)・死亡リスクが高い」という説があるが、デルタでもワクチン接種の有無よりも、年齢(50歳以上)による影響の方が大きいといえる。  

この統計からわからないこと:

1.どのワクチンを使用したか(アストラゼネカ、またはファイザー)
2.感染者の衛生習慣、行動(マスク、ソーシャルディスタンシング)等
3.感染者のリスク要因(糖尿病や肥満等の慢性疾患、50歳以上の詳しい年齢区分)
4.発症後の治療(早期診療を受けたか?や治療内容)

「この統計からわからないこと」は、本レポートの数字を使って、ワクチンの有効性について検討してみたものの、この点がわからないため、曖昧な結論になってしまうこと・・・もっと言うと、個人的に、ワクチンよりも実はこの要因の方が影響が大きいのではないかと考えていることです。

実際、「重症化や死亡リスクは、年齢が与える影響が大きい」と言うことは世界各国のデータから分かっています。年齢要因は特に重要かと思います。「亡くなられる方のほとんどが75歳以上であることや、20歳未満で亡くなられる方がほどんどいない」等、各国共通のデータとして既に出ていますので、本データも、20歳以下、21〜50歳、50〜65歳、65〜75歳、75歳以上くらいに分けた年齢グループで、再集計されると、ワクチン接種を検討する際に、自分に必要なデータがわかるのになという気がします。

結論

「コロナが収まらないのも、変異株が猛威をふるうのも、ワクチン未接種者の責任!」ということは、少なくともイギリス公衆衛生庁からのデータでは、この説を肯定することができませんでした。マサチューセッツ州でのクラスター事例のように、「ワクチンを打ったからもう大丈夫」と、何の対策もせずに、人口密度(不特定多数の人との接触度)の高い場所に出かけてしまうと、意図せぬスプレッターになってしまう危険もあります。

メディアや政治家だけでなく、政治的な判断を優先させる科学者も多数存在します。自分には難しすぎると思わず、自分の中にある知識やスキルを総動員させ、自分で考えることが重要です

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