見出し画像

韓国生活20年。神戸・東京・ホノルル…そしてソウルへ。

韓国での生活が20年を超えた。

神戸で生まれ育ち、ハワイで大学生活を過ごし、大阪で会社員生活を送った。ソウルで働きながら一人目を出産し、夫の赴任で4年間暮らした東京で二人目を産んだ。

画像1

現在は韓国・ソウル郊外の新都市っぽい高層アパートで暮らしている。ソウル中心部まで1時間ほどかかるが、管理が行き届き、緑が多く、アパート内にカフェやフィットネスセンターが完備してある等、生活の質にはかなり満足している。

画像2

今の家以外にも、心のホームと思えるまちが何カ所かある。

生まれて20代前半まで過ごした神戸はもちろん、勤務していた大阪駅周辺も懐かしい。高校時代に両親が山口県にセカンドハウスを建てたので、休暇には新神戸‐山口間を新幹線で何度も往復した。「田舎の家」と呼んでいた山口の家も、今では第二の故郷になった。昨年から娘の一人が京都で勉強しているので、京都-ソウルの行き来もある。京都とはこれからも長い付き合いになりそうだ。韓国でも三度引越したので、それぞれのまちに大切な思い出があり、私だけが説明できる独特の空気感や匂い、文化がある。

子育てが一段落した50歳を間近に、今まで暮らしたまちを思い浮かべながら、自分が老後に暮らしたい場所はどこだろう?と考え続けている。

私が暮らしたい未来のまちは?

まずは自分にとって日常生活の条件で大切なことを書き出してみた。

- 澄んだ空気と豊富な緑
- 自転車に乗りやすいこと
- 歩くのが楽しい散歩道があること
- ぶらっと寄れる居心地の良いカフェやベーカリー
- 素敵な図書館と教会があること
- 車に乗らなくても日常生活に困らない
- 運転も苦にならない道路幅や駐車環境
- 程よい距離感で住民同士が交流できる憩いの場

何ともぜいたくな希望だな…と我ながら思う。

と同時に、今、暮らしているまちが果てしなくこの理想に近いことにも気付かされた。あえて不満点を探すなら、広いテラスがほしい、フランチャイズではなく、歴史と風情のあるお店が増えてほしい、ソウル中心までの交通が少し不便…等、その程度だ。

画像3

ではこの快適な高層アパートで、老後をずっと過ごしたいか?と聞かれると、素直にはうなずけない。

なぜだろう。

その理由の一つに、心の中に複数のホームを持っているからかな…と思う。一か所だけにとどまる生活はどうも魅力を感じないし、満足しそうにない。

都会にいる時は静かな自然に憧れ、田舎では都心の刺激を追い求め、ソウルの喧騒の中では山口が恋しくなり、神戸ではハワイを空想し、東京都心に暮らしながら京都に憧れていた。

画像4

韓国・ソウル郊外での今の暮らしが最高に便利だ…と思える日もあれば、山口の静かな路地を歩きたい日もある。神戸のデパートで優雅に買い物したい気分の日もあるし、幼少期の自分に瞬間移動したくなったり、大阪での恋愛の思い出に浸りたい日もある。東京の最先端に触れたいと衝動的に感じることもあるし、ハワイのアロハな空気感に包まれたい瞬間や、京都の風情を静かに楽しみたい時もある。

画像5

つまり、いくつかのホームを持つ私にとって「暮らしたい未来のまち」は決して一カ所ではない。自分にとって思い入れのあるまちのそれぞれに「ホーム」と思える温かい居場所と仲間を持ち、思い出スポットを大切に愛すること。それが未来のぜいたくな理想なのかもしれない。

それぞれのまちで経験したシーンがふとした時に頭をよぎる。それらは決して華やかでも特別でもない。神戸の通学路で友達と寄り道した小さな駄菓子屋、山口の無料足湯で地元の大学生らのおしゃべりをBGMに読書した時間、夕暮れ時ハワイのバス停で見た空と虫、ソウルの地下鉄通勤で毎日すれ違う人、目黒通りのスタバでママ友とコーヒーを飲みつつ、急ぎ足で出勤する人々を眺めた時間…。

すべてありふれた日常の中の一コマで、音や匂い、何気ない会話…、まちへの愛着はそんな何でもない瞬間が重なって、少しずつ深まっていくのかも知れない。

上にリストアップしたような暮らしたいまちの具体的な条件は、確かに大事なこだわりポイントではある。交通の利便性や自然環境、インフラや中心商圏の雰囲気などは、ライフスタイルに直接的な影響を及ぼすから。

でもそれ以上に大事なことがあるとすれば、どれだけそのまちと一体化した経験が日々の中に散りばめられているか、ということだと思う。日常の中でまちに溶け込み、その場の空気に馴染んで楽しむ時間、物思いにふけったり、仕事したり、道で出くわしたご近所さんとのおしゃべり…。それはまちと私が心地よく一体化している時間であり、そのまちが自分のホームになっていく過程でもある。

暮らしたい未来の街は、まちに溶け込んだ心地よい日常時間を、肩ひじ張らずに過ごせるようにデザインされていることが、何よりも求められるような気がする。そのまちをホームと思えるまで長い時間がかからないこと、その町の住民と程よい交流や距離感が保てる空間配置などもポイントだろう。

画像6

何より、まちの設計やデザインに加えて、まちを完成させる最も大切な要素は「ひと」だと思う。私たちが思っている以上に、人間の思考と行動は周りの環境の影響を受けるものだ。まちのデザインは、そのまちに暮らす人々の考え方や行動パターンにも多大な影響を及ぼす。

未来のまちは、生活者ひとり一人が自分らしいペースでまちに溶け込み、心地よい付き合い方ができるようにデザインされてほしい。例えば、静かに一人でいたい時も、誰かと軽く言葉を交わしたい時も、まちのあちこちに好みの選択肢が転がっていて、その日の気分をやさしく包んでくれる居場所が散りばめられたまち。

画像7

そんな未来のまちで、家族や友人、知人、気心知れた隣人たちと程よく繋がり合いながら、そのまちへの愛情を持って暮らしていきたい。

私は将来、心のホームであるそれぞれのまちにお気に入りの居場所を持ち、季節ごと、気分ごとに、ちょくちょく訪れ、その地を楽しみたい。私自身がそのまちの素敵な一部分となって、末永く付き合っていくことができれば、それ以上の幸せはないと夢見ている。


#暮らしたい未来のまち

この記事が受賞したコンテスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?