柳CDはクズなのか?

漫画家のかっぴーです。いま描いている漫画「左ききのエレン」でもよく悩むのが「何を描くか」より「何を描かないか」です。

例えばですが、第一部はお仕事の漫画なので、意図的に登場人物のプライベートを描かない様にしていて、都合上描く時はかなり気を遣って分量を出し過ぎない様にしています。一方で、第二部HYPEは仕事よりも人生の話なので、登場人物達は嫌になるくらいプライベートに縛られています。

今夜公開のリメイク版「左ききのエレン」は、原作版で描かなかった箇所を描いていますが、そうした一番の要因は「あれから少しだけ時代が流れて、よりあの時代が時代劇になってきた」という事です。つまり、当時は描くのが少しおっかなくてキツ過ぎるのでは無いかと思っていた部分を、今なら良いかと。もちろん、今でもキツい労働環境で悩んでる方も大勢いらっしゃるでしょうけど、色々と改善に向かっていると感じています、社会全体が。

逆に、その改善の流れの勢いが良過ぎるがために、例えば柳の様な人物は完全な悪役になってしまう空気もあります。ぶっちゃけてしまうと、数年前に柳を正しいものとして描いてしまうと洒落にならなかった、そっちに流れを誘導してしまう恐れがあった所を、今は逆の流れで「柳の様な人間が、一切許されない空気」を感じています。

柳の様なクリエイターが正しいかどうか、平凡なぼくには判断が出来ません。出来ませんが、今や少数派となっているであろう彼らに対して、過去を描く時代劇の中でさえ悪者扱い一辺倒にしてしまったら、公平では無い気がしました。

漫画を含めた作品は、必ずしも作者の倫理観を投影しておりません。作者の意見と、登場人物の意見は同じではありません。あくまで劇中では、彼らは「クズ」として語られるけれど、彼らをクズとして読むかどうかは読者の自由です。その自由を残しつつ、少しだけ「柳の様な人間が、一切許されない空気」に対する、ほんの僅かな肩入れ。彼らの存在に救われた事もある、一人の末席に居るクリエイターとして、あくまで作品上では公平なものとして描きたいと思いました。

正しいか、間違っているか、決めるのは読者の自由ですが、作者としてはそういった気持ちで、勇気を出して今夜の更新分を描きました。

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