6.士業の世界は縦社会
とりもなおさず、弁護士業界は縦社会だった。
先生と呼ばれる人達は、まず、一般の事務員なんかよりは、はるかに偉い。どんなに若くて経験がなくてもだ。
事務員の場合、まず、朝出社したら、先生方の机を事務員の中でも一般職の人達全員で拭く。交通事故等の専門事務員はぜったいやらない。次に、飲みかけのコーヒーやら、紙くずやら、中身の残った弁当やらが一緒に詰め込まれている人数分のごみ箱を仕分けて、捨てる。
これを毎朝行っていた。
40近くになり、前職ではけっこう良いポジションにいたりすると、これが辛い。
プライドを押さえ込み、何事も修行だと思った。
受付担当の女性に、会議室の空きを聞くと
「どうぞ、自分の席でお調べ下さい」
とそっけなくいわれ、入れ替わりで他の経歴の少し長い社員が同じことを言うと、ニッコリ笑って対応する。
会計担当に支払い申請を出しに行くと、複数の見慣れないトレーが置かれている。
トレーにはこちらも読めない字でなにか書いてある。
「支払い申請ってどこに出せば良いですか?」
「ここでは、私の決めたルールでやってもらっているの。それ以外の方法で出したら、受け付けないので、ちゃんとトレーを見て下さい」
「あ、すいません。。。ちょっと、文字がわからなくて」
「あなたさぁ、日本語も読めないのに、この事務所入ってきたの?」
まるで、RPGに出てくる面倒くさい登場人物である。
同じ時期に入ったおれより少し若い女性は、怖くて申請も行えない。
泣き顔でみられて、仕方なくおれが代わりに行くこともあった。
交通事故のホームページをリニューアルするよう、代表弁護士から要請があったため、事前に入念に資料を作り込み、先に送ったあとで、ミーティングのお願いを事務員リーダーと担当弁護士に依頼した時の話だ。
何度、ミーティングを開いても、出席してくれない。
たまに、出席しても、お茶を濁して帰ってしまう。
電話をしても、忙しいだの、資料がわかりにくいだのと、言いがかりをつけて切ってしまう。
なにせ、稼ぎ頭のリーダー事務員と、担当弁護士だ。こちらも強く言うことが出来ない。
普通なら2〜3時間で終わるはずの打ち合わせが、3ヶ月ほど行えない。
そのうち、一緒にこの仕事をしていた女性が、精神的に病んでしまった。
そんなある日、代表弁護士の一人から電話がかかってきた。
「沖田さん達が、ミーティングをやらないから、Webサイトができあがらないと言っているぞ」
あきれるより前に、すげーなと思った。もはや、人間関係の枠を超越しているが、ここではこのやり方が有効らしい。
メール等、証拠を示して経緯を説明すると、代表としても扱いにくい人達だったらしく
「そういうことを指摘するとケンカになるからやめてくれ」
と言われた。
どうやら、代表弁護士(社長)も取り扱いに困っているらしい。
そんな状況でもなんとか、頭を床にこすりつけるようにして、Webサイトの制作を進めていった。
さて、このチームの弁護士とリーダーはその後、結婚して独立された。
まったく、徹底したことである。
もちろん、そんな先生や事務員ばかりでなく、まじめに、困っている人達の助けになろうというスタッフも大勢いる。
困ったら、専門家の多い、法律事務所や弁護士事務所に相談してみた方が良いだろう。
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