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男が死ぬ。

俺は男としての自信と尊厳を失った。


その話の前に少し昔話を挟む。

物心ついた時から自分は他の人とは違うと分からされてきた。

それは悪い意味でだ。

今では大体はよくなってはいるが当時は病院にかかりきりだった。
アレルギー、アトピー、喘息、中耳炎、発達の遅い体などなど。

最初から全然自分に自信がなかった。

学校のプールの時間は見学。マラソン大会見学。
みんな楽しそうにしているのを横目で見ていた。

塩素の強いプールには入れなかったので中学にあがるまでは泳げなかった。

小学校を卒業してから中学に上がるまでの1ヶ月ちょっとの時間で泳ぎを猛特訓した。
ある程度のところまで泳げるようになった。

だが、1ヶ月で泳げるようになった子と数年間泳いできた子では歴然とした差があった。

その差を埋めるのには時間が必要だった。
努力では報われない事もあることを知った。


小・中では病弱で小さい体に高い声だったので、割と女子にチヤホヤされていたほうだった。

高校に上がってからはオナニー中毒になり、ニキビヅラになり、毛量が増えたことによりめちゃくちゃ汚くなったような気がする。
女子校舎、男子校舎に分かれている高校だった。
おかげで女子への免疫が皆無になり、毎日オナニーに耽った。

さらに自分に自信が減り、女子と全然話せなくなっていた。オタクの友達といる時間が安らぎだった。

そんな中ヤンキーたちに目をつけられる。
男としての自信はおろか、強さとは反対に位置している俺はかなり困惑したが、なんとか自分に一個のキャラ作りを用意して3年間を乗り切った。

サイコパスイカれキャラとしてやり切った。

こいつ怒らせたらヤバそうみたいな感じを演出していた。(つもりだ)
今思えば内心はバクバクだった。

専門に入ってからは陽キャを演じた。(つもりだ)
陽キャに憧れがあったので自分なりにやった。
3年間の鬱憤を晴らすために暴れまくったら大事な何かを失った。
友人、恋人色々だ。
これはなかなか社会勉強になったが大事な何かと一緒に自信も失った。

専門卒業後は高校での友達もいなかったし完全に一人ぼっちになった。
それは2、3年くらい続いた。
モノクロの世界に1人だけ存在してる気分だった。

良し悪しの判断も鈍り悪い人間(小・中学生の頃の親友)に50万円騙し取られ逃げられた。

生活はかなり細くなり余計苦しくなった。

人間の悪意に恐れ慄いた。


そのころ自信は皆無だった。



社会人就職後、高校で唯一関わりがあったやつとまた仲良くなった。

そいつはなかなか変わり者で、俺がイカれキャラを演じていた時にそれに共鳴したかのように近づいてきたやつだ。
顔だけは良かった。

高校卒業後色んな女を落としてきているみたいだった。別れる理由はいつも「その女に飽きたから」

前にかなり可愛い彼女を連れてた時もやつの浮気で別れていた。

そいつはいつも自分に自信があった。
赤い服を見に纏う。
自信の証拠だ。(心理学的にそうらしい)

しかも背の低い真っ黒の高級車に乗っている。
親から譲り受けた高級車を。
金の苦労を知らない。

そんなんで女を迎えに行ってるわけだから自己肯定感爆上がりに違いない。

どういう経緯かそいつにベタ惚れのなかなかに良い女と2人で話す機会があった。

彼女は出会って間もない割にやつにかなり陶酔してるようだった。女遊びしてることを承知で連んでいるらしい。

わからない。

付け入る隙もない、そいつ色に染め上げられていた。

カリスマというか才能を感じた。

会話の面白さ、ボキャブラリーの多さ、1日に笑わせてあげられる回数だったら負ける気がしなかったが圧倒的な敗北感だった。

別に俺の女だったわけでもないし、競ってるわけでもないが俺の本能は負けを認めてしまった。

「負けたッッ!!!!!男として、オスとして親友に負けた………」

動物にとってオスとしての負けは遺伝子に影響するだろう。

これにより俺の遺伝子は生物学的に必要ないものとなってしまった。

尊厳を失ったのだ。


しかし人間は野生に分類されない。
金さえあれば全て解決できる人間社会だ。

金さえあれば自信も尊厳も得られるだろうか。


齢23 冬

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