見出し画像

映画感想『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

2023年10月22日鑑賞
※内容のネタバレを含みます

 スコセッシ映画の新作を劇場で観るのは初めて。しかもディカプリオとデニーロ共演、超長尺の上映時間というご褒美みたいな作品を大画面で観られて、ずっとこの幸福な時間が続いてくれ〜と思った。3時間半もあるのに終わったあと「もうこれで終わり?」と寂しくなった。

 内容も実録犯罪モノでありアメリカ論であり、というスコセッシらしさ全開で良かった。
 歴史に隠蔽された地域ぐるみの虐殺事件を今に訴える映画という意味では、100年前という事件の年代も含めて『福田村事件』とのシンクロも感じた。
 罪もない特定民族の民間人が次々と殺されたという題材の深刻さに即してか、今作の人が殺されるシーンは『グッドフェローズ』なんかと比べてできるだけ盛り上がりを抑えて淡々とした感じで撮っているんだけど、その乾いた感じがかえって面白く感じられてしまうところも正直あった。でも、物語に直接関わらず犠牲者としてだけ出てくる人たちの殺害シーンの直前にその人の生活シーンをワンカットだけ入れるなど、実録映画として誠実なタイプの面白さになってるんじゃないかなと思った。
 あと似ている映画といえば、これも日本映画だけど『凶悪』が結構近いと思った。利権目当てであっさり人を殺しちゃうという事件の実態もそうだし、主人公が酷い犯罪してる一方で家族は大切にしてたり、最終的になんか勝手に救われた気になっていやがるとことかも似ていた。(“救われた気になる”モチーフはスコセッシがデビュー作からずっと描いてるけど、今回の手前勝手さはすごい。)

 役者陣もみんな良かった。リリー・グラッドストーンの表情の神々しさもすごかったし、ブレンダン・フレイザーの出てきた瞬間から醸されるヤバさも印象的だった。他にも主に殺人者たちで強烈なキャラがいっぱいいた気がするけど、一回観ただけだと誰が誰だが把握しきれてない部分もあるのでまたちゃんと観たい。
 しかし何と言ってもロバート・デ・ニーロである。デニーロは今回『グッドフェローズ』に近い立ち位置で、主役ではないけど強烈な悪役として主演のディカプリオと良いバランスを保っていた。権力あるおっかない大悪人でありつつ、最後の最後まで本心を掴ませない、ひょっとしたら全部本気で“そう“思ってたのか…?という狂気も感じさせてさらに恐ろしくなる。

 観ている間ずっと良い意味で気になったのは、ディカプリオ演じるアーネストのキャラクター。想像していたよりずっと最初からワルで、序盤から普通に強盗とかしてて見間違いかと思った。この人はどういうスタンスで生きてて、何を大切にしている人なんだろう?ということが終始わかるようでわからなくて、ディカプリオが演じているからこそ主人公として成立しているバランスのキャラクターだし、共感や感情移入といった要素からはかけ離れた主人公のあり方だと思った。
 でもエンドクレジットの間に思い出すのは、あの嵐の夜のモリーとの場面だった。もしかしたらあそこには嘘偽りのない何かがあったのかもしれない…。
 そもそもスコセッシ作品って、特に近年の作品はあまりストレートに思い入れのできない主人公が多い。それでも例えば『アイリッシュマン』のデニーロが醸す孤独や、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のディカプリオが演じきった軽薄な悪党の“でも人間社会ってこんなもんだから仕方ないよな”って感じとかが、ジワジワと後になって好印象として湧いてくることが多い。この作品の主人公も、後になって思い出したり観返したりすることで面白みが増すかもしれない。

 主人公に対する困惑とは裏腹に、作り手がこの作品で何を訴えたいかというのはこれ以上無いほど明白だった。スコセッシ映画は事件が一段落したあとの“その後”パートが長いのも特徴だけど、今回のエピローグ的部分はそう来るか!という見せ方だった。(今年の某話題作映画とまさかのシンクロしている。)演出としての面白さと、あっと驚くサプライズと、このパートの様相が実際に存在したものだという皮肉な事実から来るメッセージ性とが詰まった、とても良いラストだった。

 最後でついにスコセッシ本人が出てきた時には「まさかこの人もう引退する気か?」と一瞬思ったが、またディカプリオと組んで作るらしくて何より。100歳まで映画撮ってくれ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?