映画感想『化け猫あんずちゃん』 みっともなくしたたかに存在すること

2024年7月24日、映画館にて鑑賞。

 すごく良かった!!

 あんずちゃんがめちゃくちゃ愛らしい。登場した瞬間から「この映画最高だな」と確信し、あんずちゃんがスクーターでバカ笑いしながら風を切るタイトルバックでなんか泣きそうになってしまった。表情が今ひとつ読み取れない丸描いてチョンの顔とフラフラしてる37歳男性そのものの言動がやたらマッチしてて面白く、目が離せない。原作初期のドラえもんにも通ずるヌボっとした垢抜けなさがかわいかった。(ほとんど観たことはないけど富田耕生が演じた日テレ版のドラえもんにも近いのかもしれない。)
 スクーターの無免運転で警察に捕まったときの往生際の悪さとか、駐輪場で自転車が見つからない時のリアルすぎる動きとか、およそ神秘とは程遠いみっともない実在感がいちいち可笑しくて大笑いした。
 かりんちゃんもめっちゃかわいかった。アホそうな男子(小学生特有の「無駄なガチの大声」で挨拶するとこがツボ)を手なづけたり、妖怪軍団に同情を引く喋り方がどんどんノッてきたりとヤな感じのヒール的な魅力もあるし、東京の実家が出てきた時に映る「そりゃやさぐれもするだろうな」と思わせるあまりにもあんまりな生育環境の中でしたたかに生きてきた健気さと気高さもあって大好きになった。

 話の起伏も感情の盛り上がりも一応あるけど、とくに誰かをエンパワーメントしようとするような普遍的な寓話感は全く無くて、ただ等身大の豊かで曖昧な人間くささに満ちている時間の流れだけがあり、それこそが感動的だった。映画のキャラクターが、テーマやメッセージの要請なんかお構いなしに、好き勝手にしたたかに生きている。それでいいと思う。
 主人公2人はそれなりにろくでもないし、ギャグセンスや展開もブラックだったりオフビートだったりしてストレートな感動からは離れてるし、王道のジュブナイル映画・夏休みファミリー映画的なポップさとはズレてるかもしれない、というか好みが分かれる作品だと思った。でも自分にとっては、この混沌としてて生き生きとした感じがとても爽やかで、元気をもらえる映画だった。死んだほうがいいダメなヤツでも、今いる場所や進む先が地獄に思えても、逆立ちしたって歩いていけるのだし、みっともなくしたたかに生きていればいいんだと教えてくれた気がした。別にこの映画はそんな立派なこと言っちゃいない気もした。

 制作手法やキャストの配役はほとんど知らずに観たので、裏側の想像をすることなく、純粋にユニークなアニメ表現として表層を楽しめたのも良かったかもしれない。画面に現れる作画の表現に限っても、漫符としての汗が空中で垂れる表現と、眼鏡のレンズの屈折が描かれるリアリズムが違和感無く同居していて、さりげなく凄いことしてるなと驚いた。あんずちゃんが森山未來という事前情報すら覚えてなくてエンドロールまでわからなかったけど、宇野祥平だけは顔が宇野祥平だったので出た瞬間役者がわかったのも笑った。(あの地獄は『オカルト』の江野君みたいな顔の閻魔が仕切ってる程度のもんだから、たぶん大して極悪な場所ではないと思われる。)次は裏の役者の演技もちょっと意識しながら観るのも面白いかもしれない。

 あんずちゃんとかりんちゃん以外のキャラクターもみんな良かった。彼らは今もこの日本(とかあの世とか)のどこかに存在していると思いたい。大切な映画になった。

 それにしても山下敦弘監督の映画、劇場公開が今年4本目ってぶったまげる。

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