旅の思い出

言ったって仕方ないけど、カンカン照りの太陽の下、思い出すのは旅をしたことだ。

行けなくなって切なく思い出すのは何故なのだろう。他のところも行ったし、別にもう行かなくてもいいやと思っていたのに、わたしは今とてもパリに行きたい。パリ市立美術館、ピカソ美術館、ノートルダム大聖堂、サントシャペル、セーヌ川。通りの名を辿って右に左に。顎が疲れるフランスパンとこってりしたケーキに根をあげて、テイクアウトした中華料理をベットの上で広げてムシャムシャ食べた。

ヨーロッパの夏の強い日差しにバテながら隠れ迷子か冒険か、わからないようなぶらぶら歩きをして、昔好きだった人のことばかり考えていた。シャルトルへ向かう電車の中で、続く田園風景を眺めながら、素晴らしいバラ窓に神様を感じながら。

一人で旅をしていると普段必死で隠していた何かがべろんと顔を出す。ああ、別にこの気持ち、隠さなくていいのね、全然隠さないで生きていけるね。

いけてない失敗を、恥ずかしすぎる失恋をそうね、抱えて、胸を張って生きていこう。かけらもない才能に今宵コーラで乾杯しよう。

あの頃の、しょうもない思い出と向こうみずな勇気が他でもなく今振り返ってまぶしく見えるのは、コロナの閉塞感ゆえなのだろうが、それでも思い出すと若さの輝きを感じずにはいられない。

しけた青春だったけど、全然輝いてるとは思わなかったけど、自由だった。自由を存分に使ってた。ずっとそのままではいられないとは知られないで楽しそうにしてたな私。

いつかまた、旅をしよう。そしてまた、きれいなものを見て、普段捨てられないぐちゃぐちゃな気持ちを旅の空に放ろう。もうあの頃のように若くはないけれど、旅の空の下また身軽になってぐんぐん歩きたい。レベル1の勇者みたいに迷わず進みたい。

見上げれば青空、この空は行きたいすべての場所に繋がっているのだ。






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