のの怪談のーと その1

都市伝説なんてものはどこにでもある。
 「トイレの花子さん」、「テケテケ」、「怪人アンサー」・・・挙げたらキリがない。その中でも私が怖かったのは「サっちゃん」と「カシマさん」だ。
 内容を知らない人もいると思うが、この二つが怖かったのは共通して『聞いた人間が怪異に襲われて肉体の一部を欠損してしまう』という内容だったから。
 これは知人の原田さんから聞いた話。

 原田さんが高校時代、流行っていた都市伝説がこの「カシマさん」だった。
 「カシマさん」の話は簡単に説明すると以下の通り。
 ‘‘カシマさんに纏わる過去の凄惨な事故(または事件)を聞くと夢(または電話)で質問をされる。その質問に答えられないか間違ってしまうと肉体の一部を持っていかれてしまう‘‘
 地域ごと、時代により内容が変わってくるが概ねこんな感じだ。その凄惨な事故の導入部分も‘‘米兵に撃たれて苦しんだ‘‘という第二次世界大戦時の話や‘‘電車に飛び込んで自殺を図ったが足だけが綺麗に切れて、しかも氷点下の気温で傷口が塞がってしまった。これにより、中々血が出ずに痛みにより苦しみ悶えて凍死した‘‘というテケテケの噂のような事故の話等それこそ多種多様である。
 カシマさんはテケテケの正体として囁かれたり、北海道発祥だとか鹿島神社に関係がある等の様々な噂がある。実際に噂の元になった事故が一九三五年に起こっており、被害者女性は四時間生き延びたという。
 原田さんの場合はこの話の導入部分が‘‘電車に飛び込んで~‘‘という事故でもがき苦しんだという感じになっていた。後の内容は上記とほぼ同じだったという。 
 原田さんはそんな事は信じない性格だが、当時付き合っていた彼女がこういうオカルト話が大好きでなおかつ信じやすいという原田さんからしたら面倒くさい性格だった。
 で、案の定この話を聞いたのか夜に携帯電話に連絡が来た。
 「ね、怖いから私の家まで来てくれない?」
 彼女の家と原田さんの家は距離的には近い。問題ない事を伝える。
 彼女の家に着いたのだが、家の電気が点いていない。不審に思いながらもチャイムを鳴らす。
 「あ、来てくれたんだ! 玄関開いてるから勝手に入ってきて」
 言われるがままに玄関の戸を開ける。
 玄関からリビングに続く廊下、その先も全て真っ暗。上がるのを躊躇する程だ。
 「ピリピリ」
 携帯電話の着信が鳴る。表示は彼女の名前。
 何故ここで電話を? そう思うが特に気にも留めずに電話に出る。
 「もしもし?」
 「もしもし。玄関にいるの?」
 「そうだよ、何で電話かけてくるの?」
 「ねぇ、質問してもいい?」
 自分の問いかけを無視して話を進める彼女。
 「私って誰?」
 「え?」
 いきなり変な事を聞いてきた。
 「どういうこと?」
 「私って誰?」
 先ほどと同じにこちらの問いかけを無視して逆に問いかけてくる彼女。
 「ねぇ、私って・・・」
 電話越しから聞こえた言葉が途中で切れると
 「誰?」
 自分の耳元でハッキリと聞こえた。それも今までの彼女の声ではない『別の女』の声だ。
 「うわぁ!」
 あの時を振り返っても年甲斐もなく大声を出してしまったと原田さんは恥ずかしそうに語ってくれていたが、怖かったのだろう。想像に難くない。
 気が付いた時には家を飛び出していたという。

 彼女が右足を切断する大事故に巻き込まれてしまったという報せを聞いたのは次の日の高校のホームルームだった。

 「あの時のカシマさんの話は本当だったんですね。もっと信じていれば・・・」
 原田さんはそう話ながら存在していない左足を悲しそうな表情で撫でていた。
 そう、彼もその後間もなく左足を無くす大事故に巻き込まれてしまったのだ。
 彼は続けてこう教えてくれた。
 「あの時、声が聞こえたのは左耳からだったんです。これって偶然なんですかね?」
 私は深く考える事を止めた。何か掘ってはいけないものを掘っているような気がしたからだ。
 その彼女さんと原田さんはご結婚されたそう。幸せを願うばかりだ。

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