きみを死なせないための物語第1話感想その6

その6はシネマコクーン内の途中からですね!
シネマコクーンの広さは直径10〜15m程度の半球状で、複数人利用が想定されてるとはいえ空間の限られたコクーン内でそれだけの広さを娯楽で占有するのわけですし、きっとそこまで数は多くないのでしょう。だから人気のプログラムの時にチケットが取りにくいのはわかりますねえ
もし現実で、プロジェクションマッピングや立体画像データは無理としても似たような施設で世界遺産や宇宙空間をお散歩出来るプログラムとかあったら人気出そうですよねえ…絶対お高いですけども。

がっつり課金するアラタとシーザーのやり取りで、アラタが既に特許を持っていること、しかも専門が宇宙工学にも関わらずメインではない脱臭フィルタ。宇宙で生活をするためには限定された空間の匂いの制御も無関係ではない…のでしょうか。それでも20歳そこそこで新たな技術を開発して特許まで…とアラタもすごいですがそれを買ったシーザーもすごいですよね。「お前んとこの会社」なので所謂学生起業的なものなのかもしれませんけども。どんな会社だったのかはこれ以上の言及がないのでわからないですが、アラタ、シーザー共に既に常人ではないのがわかります。ルイもすでに芸術家として活動してますし、ターラちゃんが後々に「自分は普通」と感じちゃうのはある意味仕方ない環境ですよね。読者からすると医者になってる時点でかなりすごいです。

シネマの上映も後半に入ったのか夜のシーン。
満天の星空に大きく浮かぶ地球の姿。「現実と同期してる」らしいですが実際はこの地球も映像ですものね… シーザーは「どうして月にアポロ宇宙船であるべき」と憤慨してますけども、そもそも作中で月に対して言及があるのがここだけという…
なんで月じゃないのかは、冒頭2ページ目の「人類が遠くへ行く本は禁忌」でコクーン間を移動するシャトルはともかく長距離ロケットはNGなのでしょうし、衛星である月を描写させることは、木星の衛星に繋がっている現実を連想させかねないからNG…なのかな?
実際はいつから繋がっているのが地球であると騙していたのか…ひょっとすると地球脱出当初からなのかもしれませんね。

アラタが銀河鉄道の夜を暗唱する件、ここもねえ、後から読み返すととてもエモいシーンであり、作中でのアラタのチート性を早々に示してるシーンでもあり… 先生一つのシーンに詰め込み過ぎて私は頭がパンクしそうですよ!

エモさで語れば、この段階で既にシーザーもコクーンを離れて銀河の果てまで遠くへ行きたいと思っているのに対し、ターラの発言がないことで彼女には地球に対する執着も遠くへ行きたい欲望も特にないのだろうと思わせられます。そして第1話の段階ではシーザーって結構ヤンチャで自己主張も結構する方だったのに、2巻以降で「善良なコクーン市民」の仮面をかぶるのが上手くなっちゃったよなあと…ってなるんですよね。
で、実際子供の頃に読んだ好きな本とかって、一字一句はともかく、読み返したりしなくても割と内容覚えてたりしますよね。シーザーもね、ずーっと心に残ってたんですよねえ…

そして前回その5で書けなかったすごいなぁと思うことです。
アラタの能力と作品の設定が見事にマッチしていて、アラタが主人公である必然性がしっかりあるのですよね。
これは以前にふせったーで書いたことの繰り返しにもなりますが、この世界ではオフラインの個人記録をほぼほぼ持てない仕様なんですよ。
宇宙空間にあるコクーンに居住していて資源が限られているから個人が自由に持てる端末なんかを製造する余裕はない。紙も貴重な資源だからノートや本も一般には存在しない。その代わりにコクーン各所には公衆オンラインデバイスが埋め込まれていて自由にアクセスできる。個人で写真は撮れないけども監視カメラの映像がアーカイブ含めて公開されていて、自由にスクショやSNSへの投稿ができる。
加えてパートナー制度によってリアルでは自由な交流はできないけどもオンライン上なら匿名()で交流可能。
一般市民はそれが当たり前だから不自由は感じていないし、管理側は情報統制がしやすい環境を作れて、かつ必要以上の物品生産をしなくていい。

反面、オフラインで情報を持っていたいなら頭の中に納めておくしかないわけです。記憶力が優れていないと「秘密」を持つことは難しい。
アラタはみたまんま記憶できる能力を持ったネオテニイで、しかも情報の応用活用までできちゃう頭脳を持ってるわけですよね。
コクーン社会ではほぼチート級の能力ですよね。しかも同世代に多様な能力を持ったネオテニイがうまれてる。ソウイチロウやひいおばあちゃまがチャンスと思っても当然ですよね!!

これがね、近未来の地球の話だったり、電脳化した人類がいる作品だったりしたら、アラタの能力ってそこまでチートにはならないんです。
作品世界の必然と必要を満たして、読者を納得させられる人物を主人公においた先生はすごいなぁと思っているのです。

次のシーンからの感想はその7で!