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「手でふれた南アフリカ」植田智加子著

■あらすじ

鍼灸師である著者が、ふとしたきっかけでネルソン・マンデラ氏と知り合い南アフリカへ渡り、現地で数十の家に泊まりながら治療を行う中で出会った人々のあり方を丁寧に描いたエッセイ。

長く続いたアパルトヘイトの時代からマンデラ氏が大統領に就任する1994年前後、日々愛おしそうに料理をする男性、スープと手作りの黒パンでもてなす夫婦、政権交代からの開放を喜びレストランに繰り出す女性たち。一見心地よい日常を大切にしている、平和な空気の漂う彼らは、実は過去にあらゆる拷問を受けながらもアパルトヘイトに反対し続けた活動家たちでもあった。

そのほか、非常に美しい容姿を持ちつつも、「この国で起こっていることを知ったら、服にお金を使うなんて」と自分では一切新しい服を買わない白人女性、政府が黒人用として建てた貧しい家に住む気高い病人、アパルトヘイト廃止後に、困っている白人に親切にする黒人の青年。料理を愛する男性は、投獄から生還できたら、二度といい加減なものはつくらない、と自分に誓っていた。

植田氏が話し、治療し、ともに食べ、生活をする中で、手で・心でふれた、彼らの言葉、表情、動き、身体を伝える作品。