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広瀬章人八段【将棋のこと】

私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。

私が広瀬章人八段を初めて見たのはニコ生のゲーム番組でした。ゲームそのものに興味はありませんでしたが、棋士が出演すると知り将棋にハマり始めの私はただただ見知った棋士を増やしたくてその番組を眺めていました。その出演者の一人が広瀬八段。当時七段で20代半ばだったかと思います。当然、番組初めに出演者紹介があり、若手扱いにて下座で控えめにしていた広瀬八段が元王位と知って驚いたことを覚えています。失礼な感想になりますが、こんなに普通っぽい人がタイトルを獲れたの?と思いましたし、その番組における広瀬八段はひたすらに大人しく穏やかで常識的な若者でした。

当時の棋界は羽生世代+渡辺名人(当時竜王)でタイトルを分け合っており渡辺名人よりも年下の棋士がその一角に割り込めたとは想像も付きませんでした。その後将棋を知るにつれて広瀬八段の逸話がぽつぽつと入ってくる。どうやら子供時代からちょっとやそっとの才気ではなかったらしい。うーん、これもまた失礼な意見ですが、どうも納得しずらい。私が勝手にイメージする才気に合ってくれない。佐々木勇気新八段のような天真爛漫系なら理解が出来るんです。子供の頃からさぞ煌めいていただろうと想像が付きます。豊島九段のような繊細透明系も解る。淡くとも絶えず静かな光を放っていそうだと。でも広瀬八段は温和常識系。非常に好感は持ちますが才気溢れる方には正直見え難かった。それくらい気遣い気配りの出来る常識人としての人柄しか広瀬八段からは見ることが出来ませんでした。

そんな折、溢れる才気を見せ付けられたのが将棋ウォーズの番組。ウォーズ特有の早指しでタップ操作も含めて不慣れな棋士は皆、苦戦していました。そもそも誰とも判らない素人にプロ棋士が負ける訳にはいかない。プロには試練の対局なんです。しかし将棋といえども少し事情が違う。私の感想ではサッカーとフットサル、バレーとビーチバレーくらい違うのではないかと思いました。基本の棋力は要るのでしょうがルールと環境が違い過ぎて慣れの影響が勝敗を左右する。実際、実力が発揮出来ずに気の毒なくらい負けが込んでしまった棋士も何人か見ました。プロの不覚の方が番組が盛り上がるという残忍な一面もありながら断わることも出来ないというプロ側のデメリットが多めの企画。そんな中、いつもと変わらず穏やかで飄々とした広瀬八段が対局に挑みました。意気込みを聞かれても「どうですかねー」とのんびり笑顔で受け流すその顔に気負いや不安は全く感じられません。むしろ余裕ある者としての大きさや自信の光のようなものを初めて広瀬八段に見た瞬間だったと思います。タブレットを前に手渡されたタッチペンでチョンチョン指しながら軽く思案顔。超早指しをしているとは思えないそのリラックスした様子がスケジュール確認でもする有能秘書のように見えたことを記憶しています。それほどまでに気合も入れず淡々と指し進めていました。結果、プロ棋士を苦しめていた謎の強豪に圧勝です。慌てることもなく流れるような手筋で全く相手にしませんでした。あまりの強さに周囲はどよめき賞賛しましたが、何事でもなかったように頭を掻いてタブレットとペンを丁寧に返す。そのコントラストの狭間に鬼のような強さが輝きを増して、これが逸話に聞く才気ですかと恐れいりました。

その後順当にA級に上がっては竜王のタイトルも獲得した広瀬八段。かの天才さえ現れなければ広瀬時代だってあったかもしれません。ここ最近、天才の輝きが益々光を帯びるので霞んで見えづらいですが、広瀬八段の充実ぶりも相当なものでした。その充実の八段でも名人挑戦を阻まれてしまう訳ですから、才気の上を行く天才とは本当に手が付けられません。

でも、まだまだ期待したい。私の中で広瀬八段は想像を覆してくれる棋士なんです。若くして王位を獲得したと紹介されても想像は出来ませんでしたが、今ならその強さは十二分に解ります。子供の頃から才気溢れると言われても信じ難かったですが、その光は鈍感な私ですら今なら眩しいくらいです。常識的に見えて非常識なほどに強い広瀬八段。藤井五冠の強さは番勝負で負けることなど想像も出来ない現状ですが、そんな想像が覆されるような事態が起こるのであれば、私は広瀬八段を最有力候補に推したいと思います。

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