ひとり芝居テキスト「月を追いかける男」

むかしむかし あるところに わかものがいました

彼は毎晩 夜空にのぼる 月をみつめていました

彼は月に行ってみたいと思いました。

そこで、彼はこの村の長老に、月を追いかけるため、村を出ることを告げました。

長老は、彼が月を追いかけることをやめさせようと説得しました。

しかし、どんなに言葉を重ねても、
彼の月に行きたい気持ちを抑えることはできませんでした。

彼は村を出ました。

彼は月を目指して進みました。

月がのぼり、沈むまで、彼は走り続けました。
彼がどんなに走っても、月は近づくことありませんでした。

いくつもの山を越え、
いくつもの大河を越え、
いくつもの海を越え、
彼は月を追いかけました。

でも、いつまでも月にたどり着くことはありませんでした。

いくつもの夜をこえ、
幾百もの夜をこえ
幾千もの夜をこえました。

でも、いつまでも月にたどり着くことはありませんでした。

しかし、いつまでも、いつまでも
彼は月を追いかけ続けました。

そして、幾万もの夜を経て、
彼は自分の村に帰ってきました。
老いさらばえた彼には、もう月を追いかけることはできませんでした。

座り込んでいる彼のもとに、
若い男が彼に話しかけてきました。

若い男は、かつての彼と同じように、
月を追いかけたいと告げました。

彼は、若い男を思いとどまらせるために、
いままで自分がおこなってきたことを告げました。

しかし、どんなに言葉を重ねても、
若い男の月に行きたい気持ちを抑えることはできませんでした。

そして、若い男は村を出ていきました。

その背中をじっと見送る彼
彼は若い男が見えなくなるまで、ずっと見送りました。

彼は祈りました。
若い男が、月にたどり着くことではなく、
あきらめることなく旅を続けることを

月が夜空に昇っていました。
立ちつくす彼の姿に長い影を大地に落としました。

彼は月を見上げました。
そして、彼は月を眺め続けました。
ずっと、ずっと、ずっと。。。

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