ひとり芝居テキスト「ハロウィンの魔女」

~ハロウィンの魔女~

むかしむかし 人里離れた森の奥に、一人の老婆が住んでいた。
彼女が子供の頃は、街で両親と暮らしていた。
しかし、父親が病気で亡くなり、母ひとりの手で育てられた。
そのため貧しい生活を強いられ、また街の人々の目も冷たかった。
ハロウィンの祭りで、お菓子をもらいにいっても、
乞食扱いされ、お菓子をもらうどころか、追い払われた。
ある日、街に疫病が流行った。
父親が亡くなった病気だった。
街の人々は母を魔女と呼び、石をぶつけ、火あぶりで処刑した。
炎に焼かれる母親は、ただひたすらに逃げろと叫んでいた。
彼女は街から逃げ出し、誰も訪れることのない森で静かに暮らしていた。
誰からも責められることなく、心穏やかに暮らしていた。
時々、森に人が迷ってくることがあったが、
関わりを持ちたくはないので、追い払った。
人は彼女の事を「魔女」と呼び捨てて、去っていった。
そうして、年老いるまで、この森でずっと暮らしてきた。
ある夜の事、老婆はふと幸せな頃のハロウィンの夜を思い出した。
母親が作ってくれた、かぼちゃ料理や甘いお菓子。
老婆はそれらを昔を思い出しながら作った。
ケーキで土台を焼き、その上に飴細工の家をつくり、砂糖の雪を散らした。
子供の頃の一家団欒の幸せな時間を思い出し、噛み締めた。
不細工な飴細工に砂糖まみれの焦げたケーキ。
でも、それが老婆にとって美しい思い出だった。
ふと、ドアをノックする音がした。
ドアを開けると、外には二人の子供、男の子と女の子がいた。
二人は兄と妹の兄妹だった。
森の中で迷っていたらしく、泥だらけで傷だらけだった。
しかも二人ともやせ細っていた。
二人はテーブルの上にある魔女のケーキをみつけ
「お菓子をちょうだい」とかぼそい声で言った。
老婆はかつての自分の姿を思い出した。
老婆は「いいよ」と言って、二人を家に招きいれた。
かぼちゃ料理をご馳走し、ケーキと暖かいミルクを与え、
お風呂と、ふかふかのベッドを与えた。
なぜ森で迷ったか問うと、兄弟は森で親に捨てられたという。
父親を亡くし、しばらくは母親と3人で暮らしていたが、
母親が新しい父親の元に通うようになり、
ほっとかれて兄妹だけで過ごす事が多かった。
あるとき、新しい父親が二人を森に連れてきて、
そこで捨てられてしまったらしい。
兄妹は家に帰りたがったが、
今ここで帰っても、また親に邪魔者にされると思った老婆は、
兄のほうは、怪我もひどく、安静が必要なこともあり、
二人にしばらくここで暮らすことを勧めた。
二人が街に戻っても、二人だけで生き抜けるように
老婆は二人にいろいろ教えた。
男の子には仕事をする上で必要な様々な知識を与えた。
女の子には家を守るために必要な家事をやらせた。
二人には自分の力で強く生きていけるよう、厳しく老婆は教えた。
そうして暮らしていくうちに、ハロウィンの夜がやってきた。
老婆は二人が訪ねてきた夜と同じように
かぼちゃ料理とケーキを作った。
幸せな頃の家庭を思い出しながら、
兄妹のためにご馳走を用意していた。
老婆が大きなかまどの前で火加減を見ていると、
突然誰かに背中を押され、老婆はかまどの中に落ちてしまった。
炎に包まれる老婆の目に映ったのは、女の子が両手を突き出して立っている姿だった。
老婆は女の子に助けを求めて手を伸ばしたが、
女の子は振り返り隣の部屋に行き、男の子を部屋から連れ出そうとした。
「なぜこんな目に?」
老婆は自力でかまどから這い上がった。
炎は台所に燃え移り、あたりに火の手があがった。
ケーキの砂糖も黒焦げになり、飴細工の家は溶け、土台のケーキも崩れていった。
女の子は、男の子の手を引っ張って外へと駆け出した。
老婆はその場に崩れ、自分に何が起こったかもわからないまま、
そのまま家もろとも焼かれてしまった。

真っ暗な森の中を、走る女の子。
後ろでは赤い炎の光が照らされている。
振り返るとあの火達磨の老婆が追いかけてきている姿がありそうで、
ただひたすらに炎の光が届かないところへと、全力で駆ける。
男の子はまだ怪我が治っておらず、女の子ほど早く走れない。
手がちぎれそうなくらい後ろに引っ張られる。
でも、ここで走るのをやめたら、あの炎に巻き込まれてしまう。
とにかく女の子は無我夢中で走った。走った。走った。
朝となり、女の子は泉のそばで目が覚めた。
ここまで逃げてきてそのまま眠ってしまったらしい。
兄はいなかった。どこではぐれたのかも憶えていない。
女の子は立ち上がり、歩き出した。
そこからどうやって帰ったかはわからないが、
彼女は自分の家まで一人で帰ってきた。
夕日が彼女を照らし、その影が家まで長く伸びていた。
玄関を開けようとした時、
中から母と新しい父親の声が聞こえた。
情事にふけている二人。
彼らは自分たちに愛情は持っていなかった。
自分は彼らにとって忌み嫌うべき邪魔者だった。
森の奥で死んでいることを願っていた。
自分の帰る場所はここではない。
女の子はそう思った。
夜となり、闇につつまれたその家に
小さな明かりが見えたと思ったら、
その明かりを大きくなり、炎となってその家を包んだ。
炎の中に窓の向こうでゆらめく二つの影。
それを眺めている女の子。
大きなジャック・オー・ランタンに照らされ
女の子は涙を流しながら笑っていた。
彼女の影は長く長く家の外に伸びていた。
そしてその方角に彼女は消えていった。
朝となり、太陽が昇った。
しかし、それから太陽の光は、女の子を照らすことはなかった。
Trick or Treat
愛してちょうだい。さもないと。。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?