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2024年2月28日、Teenage Fanclub東京公演を観た

先月の末に、東京でティーンエイジ・ファンクラブの来日公演を観てきた。前回、彼らが日本に来てくれて自分が東京公演を観に行ったのは2019年2月4日。もう5年も前のことである。自分はあれから音楽のコンサートというものに一度も足を運んでいなかった。東京から遠く離れて暮らしていても、観たい公演があれば上京して実家に泊めてもらい、翌朝に高速バスで帰るという流れはできていた。この流れが中断したのは、2020年から持ち上がったコロナ禍がきっかけであり、あの年から世界も、自分の普段の暮らしもがらりと変わった。あの当時とはまた別の遠く離れた土地に引っ越し、東京は少し近くなったけど、引っ越しのことは友人達に特に知らせず、近所付き合いもほとんどない。元々の内向的な性格はコロナ禍と妙に相性が良く、ほとんど引きこもりみたいに自宅とその周辺をうろうろしているうちに、現在に至った。TFCの前回公演、自分が最後に観たライブから5年の月日が過ぎて、自分は5つ年を取った。ジェリーがいなくなったTFCは、アルバムを2枚出した。何もかも、あっという間のこと。

当夜のことをライブレポート形式で書こうとしたけど、今のポンコツ頭の自分には、この5年の月日の流れを踏まえつつライブの全貌を書き記す、なんてことは到底やり遂げられそうにない。大々的な遠距離引っ越しを控え、さまざまな手続きやら片付けやらのことで、ただでさえ容量制限中の脳がオーバーフロー状態、要するに頭がボーッとして集中力を欠いているのである。ライブの内容も今ここで完全に脳内再生できるほど覚えてはいない。しかも、白状すれば自分は最新作の「Nothing Lasts Forever」を通しでは1回しか聴いていない(10曲中4曲はすでに先行公開されて聴いていたけど)。もう本当にチケットを買って東京に出向くだけでいっぱいいっぱいだった。しかし、体験した全体的な印象としては、素晴らしいライブだったことは確かなのである。これだけは保証する。前回ライブでは脱退直後のジェリーの影を感じずにはいられなかったけど、あれからこのメンバーでアルバムを2枚作って、5年の月日を重ねてきて、これが今のTFCなんだ、という確信が5人の演奏から強く感じられた。この記事には、今の自分に書けるだけのことを思い付くままに書いていく。

会場に入ったらまず聞こえてきたのはニール・ヤングの「Welfare Mothers」、続いてフーの「So Sad About Us」だった。ほかにもキンクスの「Strangers」、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Rock and Roll」など、60~70年代のロック名曲がかかりまくる会場。まるで、いつもの自分の部屋みたいではないか。会場が恵比寿だけにエビスビールを飲みながら気分良く聴いていたら、まずフロント・アクトとしてエイロス・チャイルズが出てきた。元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ、現在はTFCの一員。エイロスについては、また時間を置いて別の記事に書く必要があると思うのでここでは割愛する。今の自分には、エイロスの音楽がじわじわと来ているのである。

開演時刻が19時半、エイロスのソロセットが30分ほどで終わり、TFCが登場したのは20時20分。当夜のセットリストがさっそくsetlist.fmに上がっている。以降の文章は、このセットリストを参照して公演の流れを思い出しつつ書く。

これを見ると、当夜演奏された全21曲のうち、「Endless Arcade」「Nothing Lasts Forever」の2枚の新作から9曲も演奏している。2019年のライブでも思ったことだけど、TFCは懐かしの90年代名曲に頼ってセットリストを組むようなバンドではないのである。名曲はこれからもどんどん生まれるし、会場をいっぱいにした観客もそれを聴きに来ている。その現役感が改めて確認できたライブだった。ノーマンもセットの途中で、「前のライブから5年経って、聴いてもらいたい新曲がたくさんあるんだ」とステージから日本の観衆に語ってくれた。まずオープニングからして「Home」だったのが嬉しい。

前回公演の直後、まず2019年2月20日にリリースされたシングルが「Everything Is Falling Apart」。この曲はその公演でも新曲として披露されていた。それからコロナ禍ですべてがストップした後、2020年11月に久々に世に出たTFCの新曲が「Home」だったのである。1年半以上待たされた自分にとっては、思い入れが深い。初めて生で聴いた「Home」、終盤のレイモンドとノーマンのギターの掛け合いを後ろで盛り立てるフランシスのドラムがとてもパワフルで、スタジオ作のおとなしい印象からすると意外なほど。このラインナップで5年やってきたTFCの揺るぎない結束が、この自信にあふれたビートの燃料になっているのではないか、と感じた。もう、最初からずっとこの5人でやってました、と言わんばかりのどっしりした佇まい。

前回公演と同じく「About You」や「Alcoholiday」を演奏してくれたのも嬉しかったけど、新作2枚からの曲の充実ぶりがやはり何よりも嬉しい。そして、あまり聴き慣れない変わった曲が登場。TFCには珍しく、5拍子に3拍子に4拍子が入り乱れる、よくこんなの合わせられるなあ、という複雑な曲なのである。新作にこんな曲あったっけ?としばらく考えてしまったけど、思い出した。前に当ブログでも記事にしたことがある、2003年に出たTFCのベスト盤「Four Thousand Seven Hundred And Sixty Six Seconds」のみに収録の「Did I Say」である。

この曲、メロディーも良いし、まさしく隠れた名曲である。もしかして当夜だけのレア曲か?と後でセットリストを調べてみると、最近のTFCのライブでは毎回演奏されているようである。こんなひねった曲をライブでやるなんて、素晴らしい選曲。この後も新曲を中心に演奏を進めながら、成熟した近年の曲から一転して91年の「What You Do To Me」が挟まれる。「Bandwagonesque」がTFCとの出会いだった自分にとっては感激もひとしおだったけど、さらに「Northern Britain」からの2曲を続けた後に演奏された「I'm in Love」が最高に格好良かった。

90年代の人気曲を3つ続けた後に2016年の「Here」からの曲を演奏して、会場が大盛り上がりになるのである。本当に凄いバンドだ。演奏しているTFCの面々も自信に満ちあふれている。アップテンポの「I'm in Love」はライブ終盤のハイライト曲として確固たる地位を確立したと言ってよさそうだ。前回公演で演奏しなかったレイモンドの「My Uptight Life」が聴けたのも良かった。

今年の1月に60歳のお誕生日を迎えたレイモンド、高い歌声がちょっと出づらくなったのか、ところどころノーマンのサポートが入っていたけど、前々回の2017年東京公演でこの曲を演奏したときに会場全体をぐぐっと引き付けたレイモンドの磁力が忘れられない自分としては、今回も「My Uptight Life」を演奏してくれたのは熱いことだった。レイモンドには今後も末永くこの曲を歌い続けてほしい。「The Concept」でライブ本編は終わり、アンコール。

アンコールでまず演奏したのが「Endless Arcade」からの「Back In The Day」で、これこそはノーマンにしか書けないまさしく珠玉のメロディー。近作の中でも出色の出来だったこの曲が聴けただけでも、東京まで出かけたかいがあったというもの。メンバー全員参加のヴォーカルハーモニーも美しい。確かな音程のハイトーンが映えるエイロスだけでなく、フランシスもデイヴも随所でコーラスに参加していて、全員が歌えるバンドなのである。さらに最新作からレイモンドの「See The Light」を披露した後、ノーマンが「TFCの前にフランシスとやってた、The Boy Hairdressersの曲をやるよ」と言い出す。おお、「男の子の美容師たち」か!演奏を始める前に手早くギターコードの確認をするノーマン。これは本当にレア曲のようだ。自分はこのTFC前身バンドのことは知らなくて、ここで初めて聴いたのだけど、いい曲ではないか。後で確認してみれば1987年の「Golden Shower」。いかにもインディーポップ然とした作りだけど、メロディーの質の高さはこんな最初期から一貫しているのがさすが。

アンコールの最後は定番中の定番、ファーストシングルの「Everything Flows」だった。前々回の2017年公演と同じく、ノーマンとレイモンドの二人がギターの音量を目一杯に上げて、多幸感のうちに5年ぶりのTFCライブは終わった。もちろん前回公演の「Broken」のような意外な曲を最後に用意してはいなかった。これが通常運転のTFC。ジェリーがいなくても、ノーマン、レイモンド、フランシス、デイヴ、エイロスの5人で、21曲中9曲の新しい曲を引っさげてこれだけ充実したライブを見せてくれた。もはやジェリーの「不在」すら感じることがなくなったのは、正直なところやはり寂しい。それでも、TFCが新しい音楽を生み出し続けていて、自分たちの目の前で披露してくれて、東京の観客は曲の新旧を問わず大盛り上がりでそれに応えた、という喜びの方が大きかった。

大引っ越しを控えてコロナはおろか風邪ももらいたくなく、会場ではマスク着用の上、あまり前の方には出なかった。だからこんな写真しか撮れなかったけど、楽しかった。


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