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キースの声そのものが音楽だ。思い出につつまれた魔法の瞬間を綴り上げた絵本!──キース・リチャーズ『ガス・アンド・ミー ガスじいさんとはじめてのギターの物語』

 ローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズが娘のセオドラ・デュプリー・リチャーズと一緒に作った絵本です。キースのおじいちゃんのセオドラ・オーガスタス・リチャーズ(愛称ガス)との思い出、そしてギターとの出会いを綴った絵本です。 
  
 パン職人のガスは大の音楽好き、ピアノ、バイオリン、サックスそれにギターを弾きこなす腕前を持っていました。小さなバンドのリーダーもしていたようです。キースはこのガスじいさんが大好きでした。 

 楽器でいっぱいのガスじいさんの家を訪ねるのが大好きなキース。よく2人であちこち散歩に行ったのです、愛犬をお供にして。時には2人で木の下で夜明かしをすることもありました。星空を見上げてガスはきっと音楽を口ずさんでいたのにちがいありません。 

 そうです、ガスはいつも音楽を口ずさんでいたのです。交響曲や行進曲、それにちょっと派手なばかげた曲なんかも、ありとあらゆる音楽をキースに聴かせていました。2人にとって音楽は欠かせないものだったのです。 

 ある日、ガスはキースをロンドンの楽器の工房に連れて行きました。そこにはいろんな楽器がならんでいました。チェロ、トロンボーン、ドラム……。その中でキースの目がくぎづけになった楽器がありました。 

 それがギターだったのです。その楽器にキースはひとめぼれしたのです。 

 ガスの家にもどったキースは、ピアノの上にちょこんとのっていたギターに気がつきました。でも子どものキースには文字通り、手の届かないところにあったのです。 

「もっと背がのびたらお前にやるよ」 
 このガスの一言に胸おどらせたキース。 
 ついにギターを手にできる日がやってきました。大きくなることをこんなにも心待ちにしたことはなかったでしょう。 

「マラゲーニャをおぼえたら、あとは何でも弾ける」 
 というガスの言葉を信じて、一心にキースはその曲を練習し続けます。何日も何日も、何度も何度も繰り返し練習し続けたのです。 

「コツをつかんできたな」 
 ついにガスからほめられるまでになりました。それがキースに音楽をやり続けるきっかけにもなったのです。いつも、いつも、もちろん今でもガスのことを思い出しながらキースは音楽活動をし続けているのです、ガスにもらったギターをいつまでも宝物に思いながら。 

 淡い色彩の中に描かれた数々の楽器、古いイギリスの風景、ちょっと暗いロンドンの夜……そして大切に大事にギターを抱えて弾いているキース少年の姿……。 
 キースの思い出をよみがえらすためにセオドラは古い写真資料を集めて作画しています。マラゲーニャをマスターしようと夢中でギターに向かっている少年。そこには今も変わらない音楽へ向かうキースの姿があります。 
 どれもが優しい気持ちにさせるページが続いています。そしてキースが作った(ミック・ジャガーとの共作も含めて)どの曲よりも音楽への愛情を感じさせる絵本です。 

 この本にはキース自身がつま弾く楽器の音をコラージュにした彼の朗読がCDでおさめられています。このキースの声は……絶品です。ストーンズファンだけでなく、クラシックやジャズしか聴かない人であっても心に響く朗読ではないかと思います。 
(巻末に収められたガスの写真がめっぽうカッコいいです) 
 この本はこんなキースの文で結ばれています。 
「子どもと祖父母の絆っていうのは特別なものさ。とっても大切なんだ。この本は、そんな魔法のような瞬間の物語だよ。おれも孫たちにとって、いいじいちゃんになってみたい──ガスがおれにとって、そうだったようにね」

書誌:
書 名 Gus & Me ガス・アンド・ミー ガスじいさんとはじめてのギターの物語
著 者 キース・リチャーズ
絵   セオドラ・デュプリー・リチャーズ
訳 者 奥田民生
出版社 ポプラ社
初 版 2014年9月10日
レビュアー近況:先日コーヒー店で挽いて貰ったお豆で、校了間際に一杯。美味いコーヒーで眠気も吹っ飛びました。「ブルンディ」なるこのお豆、アフリカのブルンジという国が産地とのコト。マスターが懐かしい中学だか高校だかの世界地図を引っぱり出して教えてくれましたが、国名が当時と全然変わってて、何処が何処やら。最後にはスマホで検索して納得(場所は)、見知らぬ大地に勝手に思いを馳せました。

[初出]講談社プロジェクトアマテラス「ふくほん(福本)」2014.09.25
http://p-amateras.com/threadview/?pid=207&bbsid=3092

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