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「無知がさかえたためしはない」。だからこそ新たな〈知〉のありようを求め続けなければならないのです──笠井潔・白井聡『日本劣化論』

「敗戦を終戦と言い換えたことを典型として、そこには言葉を変えることでイメージを変えようとする姑息で欺瞞的な作為が歴然としていますね」(笠井さん) 

 この欺瞞が劣化をもたらした一因であるのは間違いありません。欺瞞は怠惰を生み、自分の都合の良いように世界を解釈してしまいます、いつでも「アメリカが助けてくれる」 
といったような。このご都合主義の一例として二人は太平洋戦争末期のソ連を通じた和平工作を上げています。反共国家でありシベリア出兵までした大日本帝国をソ連が助けてくれるのではないかという大錯誤を平然と考えていたと……。 

 いったい日本の劣化に私たちは歯止めをかけられるのでしょうか。そこには反知性主義というやっかいなものが横たわっています。(反知性主義の現れとしての安倍政権はネトウヨと同レベルと二人は評していますが……) 
「立憲主義や人権を削除した自民党の憲法草案に代表される、プレモダンな反知性主義がこれまでの主流でしたが、近年はポストモダンな反知性主義も目に着きます。ポストモダンな反知性主義から、東日本大震災と原発事故のショックで啓蒙主義に転向したのが東浩紀ですが、ダメなところからダメなところに立場を変えてもダメですね」(笠井さん) 
「もともと反知性主義に対抗するのが啓蒙主義とか教養主義だったんですが、それはすでに失効してしまっています」(白井さん) 

 これは内田樹さんのいう「大人がいない」という現象に通じるものだと白井さんは論を進めています。「子どもから老人になることを強いられている」(白井さん)社会のなかで私たちはどのように歩みを進めればいいのでしょうか。二人はこう結んでいます・ 
「あらためて今、どういう社会批判が必要なのか考えなければなりませんね」(白井さん) 
「もしも知識人が今日も存在しうるのなら、いかなる資格も後ろ盾もなく、本人一人の責任で語る」(笠井さん) 

 日本の劣化を止めるにはそのような新たな〈知〉が必要なのかもしれません。無知がさかえたためしはない、といわれますがその言葉を思い出させる一冊でした。 

書誌:
書 名 日本劣化論
著 者 笠井潔・白井聡
出版社 筑摩書房
初 版 2014年7月10日
レビュアー近況:多忙にかまけてサボッていた iPhoneの機種変に。あの受付ロボットが鎮座されていました。そいつに言伝けるのかと思ったら、「お客様、ご用件お伺いいたします」と、リアル受付の店員さん。はて、あいつには何を尋ねればいいのだろうか。Siriにでも聞いてみよう。

[初出]講談社プロジェクトアマテラス「ふくほん(福本)」2014.10.22
http://p-amateras.com/threadview/?pid=207&bbsid=3174

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