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未(ひつじ)年をむかえるにあたってもう一度読み直ししてみませんか──村上春樹『羊をめぐる冒険』他

「羊の性は死を聞いて懼れざるものなり」
「孔子曰く、土の精は羊となる」
 という説を紹介したのは南方熊楠(『十二支考』)ですが、村上さんの作品に登場する羊男たちもまた、土や地下(地下室)が似合っているように思えます。
 
 大きく村上さんの作品に描かれた羊男さんは二つのグループの分けられそうです。ひるつは以前紹介した『羊男のクリスマス』に登場した羊男さん(たち)です。作品名ではこの『羊男のクリスマス』のほかには『カンガルー日和』に収録された「図書館奇譚」、それを絵本にした『ふしぎな図書館』、さらに単行本の『図書館奇譚』があります……。

 この「図書館奇譚」をひもといてみると、絵本の『ふしぎな図書館』とは違うの雰囲気なのは分かりますが、実はそれぞれが
「図書館はとてもしんとしていた。本が音を全部すいとってしまうのだ」(『カンガルー日和』所収の「図書館奇譚」)
「図書館はいつもよりずっと、しんとしていた」(『ふしぎな図書館』)
「図書館はしんとしていた。本が音という音をすべて吸いとってしまうのだ」(『図書館奇譚』)
 というように書き出しから違っています。

 さらに、この三つかと思いきや実は
「ほんとはもうひとつヴァージョンがあります。それは『村上春樹全作品1979~1989』(講談社刊)に収められています」
「つまり全部で四種類のヴァージョンがこの『図書館奇譚』(別名『ふしぎな図書館』には存在することになる。どうしてこんなに何度も書き直したのか、と尋ねられても困る。そういう機会がたまたま何度も与えられて、そのたびに「せっかくだから」と思って書き直したということなのだろう」(『図書館奇譚』あとがきより)
 
 4つのヴァージョンなんて世界でもまれではないでしょうか。4つ並べてぜひこの年末年始に読み比べてはいかがでしょう。

 もうひとつの羊男さんのグループが本流(!?)というわけではないでしょうが『羊をめぐる冒険』と『ダンス・ダンス・ダンス』です。

 来年は未年ですし、村上さんの取り上げた音楽をバックに、羊男の声に耳を傾けてみる年の瀬、年始めの過ごし方はどうでしょうか。時に哀しい気分もありますが、なにかそれを超えて感じてくる暖かさ(それを希望というのでしょうか)が伝わってくると思います。暖かい時が私たちを待っていると信じて読むといいと思います。

書誌:
書 名 羊をめぐる冒険
著 者 村上春樹
出版社 講談社 
初 版 2004年11月15日
書 名 ダンス・ダンス・ダンス
著 者 村上春樹
出版社 講談社 
初 版 2004年10月15日
書 名 カンガルー日和
著 者 村上春樹
絵   佐々木 マキ 
出版社 講談社 
初 版 1986年10月15日
書 名 ふしぎな図書館
著 者 村上春樹・佐々木 マキ 
出版社 講談社 
初 版 2008年1月16日
書 名 図書館奇譚
著 者 村上春樹
イラスト カット・メンシック 
出版社 新潮社 
初 版 2014年11月27日
レビュアー近況:ふくほんの更新は年内これが最後になります。新年は5日(月)から。どうぞ皆様よいお年を!

[初出]講談社プロジェクトアマテラス「ふくほん(福本)」2014.12.29
http://p-amateras.com/threadview/?pid=207&bbsid=3356


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