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お月さまや流れ星、ここに描かれた月たちはなかなか一筋縄ではいきません──稲垣足穂『一千一秒物語』

 ショート・ショートというジャンルですとすぐに思い浮かぶのは星新一さんの世界ではないかと思います。生涯で1000編を越える星さんのショート・ショートには、星さん独特の乾いたユーモアとウイットに溢れたものでした。

 稲垣足穂さんのショート・ショートというものにも、星さんと同様、乾いたユーモアが感じられます。稲垣さんのものは乾いたというよりももっと鉱物質的というか機械的、それも精密機械というよりゼンマイ仕掛けのような感触のある作品ではないかと思います。

 物語にしばしば登場するお月さまとはけんかしたり、追いかけっこしたり、時には三日月の一部を欠けさせてお月さまを困らせたりする主人公が登場します。またお星さまを食べる話など断片的といえば断片的ですが一度読むと癖になるような不思議な世界を私たちに味合わせてくれます。これらのモダン(!?)なものが大正時代に書かれたとはとても思えません。(今でも稲垣足穂さんのような世界はあまり見ないような気がします)

 このショート・ショートを読んでいてふと思いました、これは絵本の文章なのではないかと。アンデルセンに『絵のない絵本』という名作がありますが、それをもじっていえば『一千一秒物語』は「絵を奪われた絵本」なのではないかと思いました。

 誰が絵を奪っていったのでしょうか。盗人はここに登場した登場したお月さまや流れ星さんではないでしょうか。作品中で稲垣さんにいたずらされたしかえしに、稲垣足穂さんが描きためていた絵を持っていったのではないか……。

 そんな想像をしたくなるような世界です。
 この本に収録されたショート・ショートをふくめて稲垣足穂さんは全部で200編もの作品を書いたそうです。その全貌を知りたくなるのは、もはや稲垣足穂中毒なのでしょうか……。(この中毒はステキです)

 ショート・ショート以外の短編、中編にも稲垣さんの作品の特徴である鉱物的・メカニカルなテイストが溢れています。それは収録されている「弥勒」や「A感覚とV感覚」からも確かに感じとれます。唯一無二といってもいいこの世界は楽しむしかありません。

書誌:
書 名 一千一秒物語
著 者 稲垣足穂
出版社 新潮社
初 版 1969年12月29日
レビュアー近況:今日未明、Appleの新製品発表がありました。前回がiPhone6やApple Watchなど派手な商品投入がありましたが、今回は昔からのAppleユーザー、所謂「マカー」の触手が延びそうな商品が幾つか。「マカー」の野中も、5KディスプレイのiMacにクラクラしています。取り敢えず店頭で更にクラクラして来ます。

[初出]講談社プロジェクトアマテラス「ふくほん(福本)」2014.10.17
http://p-amateras.com/threadview/?pid=207&bbsid=3162

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