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イエスの誕生日はどのようにして祝われるようになったのか、そして今のクリスマスの姿は……これはクリスマス大百科です──嶺重淑・波部雄一郎『よくわかるクリスマス』

「誕生日を祝う習慣は古代オリエントやギリシア、ローマの世界では存在していた。しかし、これはキリスト教の習慣ではなく、異なった宗教を信仰していた人びとの習慣であった。むしろ、初期のキリスト教徒たちは誕生日を祝う習慣を批判的な目で見ていたようである」
 キリストの誕生日が12月25日になったのは、ユリウス歴で冬至の日であり、「不敗の太陽神の祝日」であったことが大きな理由だったそうです。またこの日とは別に1月6日を誕生日として祭っていた教会があったそうです。(現在でもアルメニア教会では守り続けているそうです)

 この本は、イエスの誕生日がどのように12月25日になったのかという歴史過程の検証から始まり、今の世界でどのようにクリスマスがお祝いされてきているかを取り上げた、クリスマス百科とでもいえるものです。といっても難しい検証・考証だけの本ではありません。サンタクロースの起源、国によるクリスマスの過ごし方の違い、文学(『フランダースの犬』!)や映画(ただしアメリカ映画ですが)でどのようにクリスマスがテーマとして、あるいは物語の背景として取り上げられているかを紹介するなど、楽しさ、好奇心(不謹慎かもしれませんが)が、ページを繰るごとに私たちの内に膨らんできます。

 映画を取り上げた章では『三十四丁目の奇跡』や『クリスマス・ストーリー』(日本未公開)、『クリスマス・キャロル』がランキング(アメリカの雑誌が選んだベスト20です)に入っているのは不思議ではありませんが、『グレムリン』『ダイ・ハード』『宇宙大戦争 サンタvs.火星人』というフィルムがランクインしているのには少し驚きました。けれどそれはクリスマスの過ごし方というものを考えると不思議でもなんでもなかったのです。クリスマスは家族で祝うものという原則がそこにはあるのです。だからクリスマス映画には、家族一緒で楽しめるものということが欠かせない要素となっているのです。西部劇の『三人の名付け親』(ジョン・フォードとジョン・ウエインです!)がランクインしているのもそれゆえなのでしょう。

 おなじみのサンタ・クロースを生んだのもアメリカでした。確かに聖ニコラオス(なんと同名の聖人が二人いたそうです、違う時代に)がモデルになっているのですが、
「聖ニコラウスの日の前の晩に聖ニコラウスが来るという言い伝えが、クリスマスの前の晩にサンタクロースが来るという言い伝えに変わったのは1820年代である。1923年にニューヨークの新聞に『聖ニコラウスの訪問』という詩」が掲載されたのがどうも始まりだったようです。この詩(匿名だったそうです)に描かれた聖ニコラウスには、今の私たちが思っているサンタのイメージのほとんどが(トナカイを含めて)含まれています。

 でもなぜニューヨークだったのでしょうか? それは、もともとニューヨークはオランダ領だったからでした。「貿易国オランダ人々のにとって、船乗りや商人の聖人である聖ニコラウス日(12月6日!)は大切」にされていたのです。
 もともと、ピューリタンの人々には「クリスマスは腐敗とした映らなかった」ようです。「クリスマスとはイエスの誕生を祝う厳粛なミサのことであった。しかし16世紀になると、クリスマスは飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの日に変わってしまった」
 ヨーロッパの当時のクリスマスの祝い方は現在の日本や中国のようにどんちゃん騒ぎだったのですね。ところがニューアムステルダムからニューヨークに変わったときに、オランダ人が祝っていた(子どもたちにプレセントをしていた習慣があったといいます)ものを受け継いで(?)新たに誕生したのです。

 でも、やはり歴史は繰り返すというのでしょうか、いつの間にか家族のお祭りが大きくなり、それが商機を生むようになり、またどんちゃん騒ぎになってしまいました。といってもどんちゃんと騒いでいるのはどうもキリスト教が浸透している国ではないようで、この本で紹介されているスイスやデンマークなどヨーロッパの国々ではやはりクリスマスは家族で祝っているのが多いようです。

 ところで、中国でのクリスマスの「認知度のひろがり」には中国共産党は、実はやきもきしているようです。「公共の場での宣教活動が禁止されているキリスト教会にとって、クリスマスは大勢の非信者が教会に訪れるため、合法的に新規の信者を獲得する絶好の機会」となっているからです。中国共産党の宗教政策は厳格な監視下におかれているにもかかわらず「中国政府にとってクリスマスとは建国以来の宗教管理の前提を揺るがす出来事となっていることに注意せねばならない。(略)もちろん教会へ足を運ぶ人々は中国政府に抵抗しているのではなく、ただクリスマスの雰囲気を教会に求めているだけであるが、それが図らずも政府の宗教政策のあり方を再検討せざるを得なくさせている」ことになっているのです。中国のサンタさんの袋にはきっと自由というものが入っているのかもしれません。(クリスマスでどんちゃんしているのはどうやら富裕層が中心になっているそうです……やれやれ……)

 硬軟取り混ぜて、この本はクリスマスってなに? どう過ごすの? 誰と過ごすの? と私たちに考えさせてくれるものだと思います。でも楽しむことを忘れる必要はありません。そんなことをいっている本ではないと思います。クリスマスを見直し、新たに楽しく過ごすひとつのきっかけになると思います。(もしかして話のタネになるだけかもしれませんが、それでもいいのではないでしょうか。きっと許してくれるでしょう)

 ところでクリスマス・イブの「イブとは「前日」ではなく「夕方」(イブニング)のことで、古代ユダヤでは日没から1日が始まるとされていたため、24日の夕刻よりクリスマスに入ると考えられている」って知ってましたか? 巻末のクリスマス用語集にそう書かれています。この用語集、とてもおもしろいです。

 ではみなさま、「メリークリスマス!」(最近では「ハッピー・ホリデーズ」のほうが多いらしいですが)

書誌:
書 名 よくわかるクリスマス
編 者 嶺重淑・波部雄一郎
出版社 教文館 
初 版 2014年9月20日
レビュアー近況:自宅至近に人工の干潟があるのですが、渡り鳥が毎シーズン飛来してきます。年々その数が増え、今シーズンは夥しい羽数に。有志の方々が手入れをされている干潟、人の手でも自然を大きく作りあげることも可能なのですね。

[初出]講談社プロジェクトアマテラス「ふくほん(福本)」2014.12.22
http://p-amateras.com/threadview/?pid=207&bbsid=3340

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