乳がん検診の「精密検査」と「生検」

乳がん検診で要精密検査となったときに読む話
https://note.com/nonaiscope/n/n69e5ac71e380


前回の続きみたいなものです。
乳がん検診を受けたあなたの結果は「要精密検査」でした。
知人やネットなどを頼りに、ここならというクリニックを見つけました。

ところで「要精密検査」の「精密検査」は何をしているか。
今回はそんな話です。


乳がん診療における一般的な精密検査の流れ

1:視触診で乳房所見を確認
2:マンモグラフィーや乳房超音波検査の再検査
3:画像結果などを踏まえ、乳がんを疑う所見の有無を検討
4:乳がんを疑う所見や生検の必要性あり →「生検」
  生検不要、明らかに良性 → 「経過観察」「精査終了」
5:「生検」を行った場合は、診察所見と生検結果とに乖離がないかを確認
 →対応を検討

以下、順に解説します。
1:視触診
どれだけ重点を置くかは診察医によって異なると思います。
手当て(触診)こそ診察の基本と考える医師もいれば、重要視しない医師もいるでしょう(ちなみにおいらは後者でした)

2:再検査
原則両方とも再検査だと思います。
(おいらの場合)マンモグラフィについては再検査しないこともありましたが、「構築の乱れ」「石灰化」で要精査となった方はやはり再検査です。
乳房超音波検査についてはほぼ全例で再検査でした。

3:評価
ここが「精密検査」で一番の肝となる場所です。
生検、すなわち侵襲性ある検査まで行うべきか。その根拠は。
生検の必要性がなくとも、経過観察として再診の予約を取るか、一旦終了とするか。

悪性(がん)を疑う所見があるなど、生検の必要性があれば次のステップです。

4:生検
針を用いた検査です。前回エントリーでは良性を確認するために生検をすることもあると記載しましたが、基本的に生検は悪性所見の有無を確認するために行います。

5:生検結果評価
最終評価です。


生検あれこれ

一言で「生検」といっても、いくつか種類があります。

乳腺腫瘤(しこり)に対する生検方法は概ね3種類に分けられます(厳密には生検=組織生検を指し、細胞診は含まれませんが、ここでは侵襲を伴う手技として細胞診も生検に含みます)

◯穿刺吸引細胞診(FNA:Fine Needle Aspiration cytology)
針の太さ:21G (外径0.8mm)
採血で用いられる一般的な針の太さです。
コンタミ(対象となる細胞以外のものが混入すること)が起こりやすくなるなどといった理由から局所麻酔は使用しません。

乳がん診療ガイドライン「BQ1.乳房の病変の確定診断のために,穿刺吸引細胞診(FNA),針生検(CNB),吸引式乳房組織生検(VAB)のいずれのアプローチを最初に行うのがよいか?(  http://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/byouri/bq1/ )」によれば、
FNAは感度74%(95%CI 72‒77%),特異度96%(95%CI 94‒98%)となっています。数値としてはそこそこありますが、かなり技量の差がでる検査だと思います。

検体への追加処理が難しいため、良性診断や腋窩リンパ節に対する検査以外ではほとんど行われていないかもしれません。検査は5分程度で終わります。検査後の安静は不要です。

Youtubeで見つけた参考動画を載せておきます。実際の検査が載っているので、精神的な負担を感じる恐れのある方や針を見るのが苦手な方は飛ばしてください(血は流れません)
https://www.youtube.com/watch?v=ink1nyRCnDQ


画像1

(赤丸にシリンジのお尻をはめて使います。この吸引ピストルは受注生産、納期も半年なので、壊さないようものすごく慎重に扱われていました)



◯針生検/コア針生検(CNB:Core Needle Biopsy)
針の太さ:14-16G (外径2.1-1.6mm)
局所麻酔を用います。針の太さに合わせてメスで切開も入れます。ですので、点ほどではありますが切開痕が残ります。
うまいこと麻酔が作用すれば、ほとんど痛みを感じずに終えることができます(が、なかなかうまいこといかず、痛い思いをさせてしまうことが大半です)。

前述のガイドラインによれば、CNBは感度87%(95%CI 84‒88%),特異度98%(95%CI 96‒99%)。基本的な生検手技です。検査は10-15分程度で終わりますが、止血操作が必要なため、抗血小板剤・抗凝固剤を内服されている場合は止血時間が延長になります。
少し圧迫された形で帰宅となりますが、運動しなければ生活の制限はしていませんでした。
再出血の可能性は低い手技ですが、操作時の皮下出血による青あざ(紫斑)はたまにあります。

画像2

(メディコン社のBARD MAGNUMを使用していました)


吸引式乳房組織生検(VAB:Vaccum Assisted breast biopsy) 
針の太さ:10-13G (外径2.5-1.8mm)

検査の方法はほとんど前述のCNBと同じです。針の太さと、構造が少々異なります。こちらも局所麻酔+メス切開があります。針の太さに合わせて切開線も伸びるため、CNBよりは「線」に近い痕が残ります。
採取できる組織量が格段に増えるため、非腫瘤形成性病変への生検でよく利用されますが、それぞれの適用に関して明確な基準があるわけではありません。

診断以外にも様々な特殊処理を行うことが多い乳房生検では、より多くの組織を採取できるVAB=生検という施設も増えていると思います。そのことを悪いことは思いませんが、検査費用は3倍くらい違うので、会計で驚かないでください(CNBは約26000円✕自己負担割合、VABは約78000円✕自己負担割合。この他にも特殊免疫染色代などが追加になります)

なお、下記文献によれば、感度は96-98%、特異度は99%となっています。

https://www.valueinhealthjournal.com/article/S1098-3015(18)31455-4/fulltext
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20130983


針が太い分だけ出血リスクが上がるため、止血時間が長くなりますが、検査時間自体はCNBと大差ありません。当日の制限についてもCNBと同様です。


画像3

画像4

上記写真以外も種類はいくつかあります。
おいらは写真1枚目のMammotome eliteを好んでいましたが、いつしか2枚目のceleroに採用変更となってしまいました。


生検の手順

簡単ですが、外来での検査説明で用いていたイラストを載せておきます。なんとなくのイメージでも湧けば幸いです。

エコーで病変を描出します

画像5

エコー画像を見ながら、生検針を挿入します。

無題1_20200311142437


外筒をファイヤーします。すると、赤丸部分の組織が切り取られ、採取が可能になります。

無題1_20200311142448

これらを何回か繰り返して検査終了です。



今回はここまでになります。
なお、今回はMRIなどによる検査や、ステレオガイド下生検(マンモトーム)などは省略しました。これらの検査、生検が用いられることもあります。ではでは。

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