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ポスト・ビレッジの思想 5

これまでの議論をなるべく端的にまとめると、こうなる。

  1. これからも外国籍の人が日本に来訪、あるいは定住する数が増えることが見込まれる中で、マジョリティである「日本人」がいつまでもムラ社会を続けていくことは、互いに異なる国籍・異なる文化圏・異なる言語圏に属していたとしても共生しなければならなくなるこの国の未来にとって建設的ではない。

  2. インターネット網が整備され、膨大な情報の洪水が絶えず押し寄せる中で、ムラ社会特有の構造であるウチ/ソト、そしてヨソという枠組みはもはや機能しなくなっており、頑なにムラ社会に回帰しようとすることは自分たちの世界の見方を狭くするどころか、この先直面しなければならなくなる重要な課題から目を逸らし続けることになる。

  3. まずは、自分たちが安住している「日本人」というムラ社会がいかに「特権」であるかということを考察すると同時に、ムラ社会を構成してきた様々な仕組みやルール・価値観の体系を、ある種の「ゲーム」として相対化し、適切な距離を置いて眺めることが重要である。

ここで、少しだけ私の個人的な実感を述べておきたい。

私は現在、箱根にあるとあるホテルの客室清掃をしている。
5名定員の部屋から10名定員のスイートルームまで、協働で埃一つ無い状態にまで清掃をして、次のゲストに気持ちよく使っていただけるように明け渡すのが、私たちの仕事だ。
その仕事仲間の間柄でよく口に上るのが「外国人ゲストの去った後の部屋は決まって荒れている」ということである。とにかく、恐ろしく汚い。
もちろん、どれだけ荒らしてくれようが、ニコニコ顔で現状復帰し、綺麗にして次に明け渡すのが私たちの仕事ではある。ただ、生ごみが平然と客室内に散乱していたり、爆買いしたことが明らかに分かるような紙袋の山が部屋に放置されていたり、洗われてもない大量の食器類がキッチンスペースを占領していたりすると、片付けなければならない私たちもさすがにゲンナリしてしまう。私も、禁煙のはずの室内トイレでタバコを吸った形跡があるのに立ち合い、臭い消しなどの処置に当たらなければならなかった時は大変だった。

生ごみは放置しない、ごみはなるべくコンパクトにまとめる、食器は洗って元に戻す、禁煙の場所ではタバコを吸わない……
こういった「日本でサービスを利用するなら最低限守って欲しい」ルール、マナー、エチケットを、言葉や価値観の通用しない相手だからと泣き寝入りするわけでもなく、かつ「ふざけるな!」と頭ごなしに説教して押し付けるでもなく、ご理解いただくにはどうしたらいいものか。
丁寧に時間をかけて対話すればわかってくれるのかもしれないが、時間をかけることが難しかったり、そもそも会って話すということが難しい相手だったりしたら、どうだろう。
このような極めてむずかしい課題を抱える一方で、ホテル全体の経営を考えた時、沢山お金を落としてくれるメインの顧客層もまた、外国人客なのである。どれだけ荒らしてくれようとも、「これだからヨソの国の人は」と排除するのではなく、出来うる限り共生共存していく道を模索したい。

このように考えていく中で、そもそも私たち日本人の側が、「外国人は最低限のマナーを守らない」という固定観念を抱いている状況から一歩抜け出す必要があるのではないかと思うようになった。
そして、今一度疑うようになった。
「日本ではこれこれこういうマナーを守ってほしい」という「日本人」ムラ特有のルールが、いつどうして出来たのか。
外国人である彼ら/彼女らに「どうやってルールを守ってもらおうか」、ではない発想で、彼ら/彼女らと向き合う方法はないものか。
ルール・マナー・経済観念・精神的つながりの形が決して共有できない、つまり「ゲーム」が違うもの同士が、争うのでもなく、また無理やり自分たちのゲームの中に取り込もうと強制するのでもない、別の可能性はないだろうか。

これらの問いに解決策が見出せたわけではない。
ただ、少なくともこれだけは確実と思われた。

日本のムラ社会は、持続可能ではない。
「ムラ社会」とは別の社会、別のゲームを、自分たちがそれぞれの手で編み出していくしかない、と。

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