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デザイナーの仕事におけるルール作り/トミナガハルキ #ノンデザ25周年

『ノンデザイナーズ・デザインブック』25周年記念、特典PDF「Missing Pages 2023」からの抜粋です。

特典PDF「Missing Pages 2023」のpp. 114-115に掲載しています。


仕事を受注する際、詳細があいまいな依頼を、なんとなくそのまま受けてしまうケースをよく耳にします。デザイナーが仕事を引き受けることは業務委託という“契約”です。よい仕事のためには双方の協力が欠かせません。そのためには明文化された契約があった方がよいでしょう。

私自身のフリーランスデザイナーとしての経験に基づき、特に押さえておいた方がいい内容について紹介します(法律上の正確性を保証するものではありません。実際に規約や契約書等を作成する場合には弁護士や行政書士に必ず監修を依頼してください)。

入口の契約── 【利用規約】

法人、フリーランスを問わず、利用規約の作成はとても重要です。自身の提供するサービス内容を策定してその範囲を取り決めたり、自分が極端に不利になってしまう条件・機会を初めから除外することで、本来のサービスに集中しやすくなります。

依頼者との依頼内容の認識の相違をなくすことで、顧客満足度を高めることにもつながります。なかでも、以下の4つの条項は利用規約への記載が必須です(弁護士や行政書士と相談して、自分のビジネスに合うようにカスタマイズしてもらうことを推奨します)。

①サービスの内容

「デザイナー=デザインに関することが何でも依頼できる人」と考える依頼者もいます。

「こういうサービスですが問題ありませんか?」という紹介をホームページや事業案内のパンフレットに記載し、まずはサービス内容を理解してもらいましょう。

②契約の解除

契約後でも条件によって、解除できる旨を記載します。蓋を開けてみればネガティブな印象の仕事内容だった…という場合に活躍します。

  • 名誉や信用を毀損するものであるなど、犯罪に問われる・法律に反するおそれがある場合

  • 著作権や商標権を侵害しているおそれがある場合

  • 利用者が契約の際に虚偽の内容を提示したことが判明した場合

③免責

損害が発生した場合であっても、特定の条件下では責任を負わないという条項です。書かれていないことに関しては責任について争うことになりかねないため、自身のサービスを守るという観点で重要な条項です。天災事変・戦争などのケースにも言及しておきます。

④知的財産の扱い

自分の知的財産をどう扱って欲しいのかの明文化は作り手として非常に重要です。

「データ納品=著作権譲渡」と勘違いされているケースも少なくありません。「契約いただいた形態での使用に限り、成果物を利用・複製できるものとします。」のような条項を設けることで著作物の利用範囲をコントロールします。

これによって、チラシデザインとして納品したものの一部が、いつの間にかTシャツ化されているといったケースを避けることにつながります。

同意の証明について

利用規約はただ記載するだけでなく、次のような方法で「同意」を得る必要があります。

  • メールフォームは「規約への同意」がないと送信できないようにする

  • 電子署名つきのPDFを交わす

出口の契約──【校了確認書】

校了とは「デザインに対して修正がない状態」(プリントメディアでは「印刷してもよい状態」)を指します。契約の出口として【校了確認書】という書類を作成するとよいでしょう。

この校了確認書をもって事実上の依頼完了となり、延々と修正や変更が発生することを避けられます。校了以降の作業については応相談(別途見積もり)という立場を取っています。

利用規約と同様に電子署名等が望ましいのですが、書類が煩雑になりすぎるとクライアントも面倒に感じることを懸念して、Googleフォームを活用して簡易的に行っています。

契約というよりは“確認作業にクライアントの記名付きで携わってもらう”ことで、緊張感を持ってチェックしてもらえることを期待しています(実際、「校了確認書」の導入後、納品後の内容差し替え要請などはほとんどなくなりました)。

とにかく文書に残そう

“言った言わない”は口頭で発生するものです。仕事の内容はとにかく文書にしてクライアントと共有し、同意しながら進めることが大切です。

  • 対面の打ち合わせであれば簡易的な議事録(合意した内容など)を共有する

  • 電話であれば、後で内容をメールで送信して同意を得る

契約は厳密には口頭でも成立しますが、その立証は難しくなります。そこで、なるべく文書(メール)で残すということが大切です。前述した規約への同意以外のやりとりも重要です。


著者:トミナガハルキ

デザイン事務所AMIX 代表
グラフィックデザイナー

外国語大学在学中に突如グラフィックデザイナーを志す。急な進路転換を周囲に心配されながらも、独学でIllustratorとPhotoshopを学び、運良く(本当に運良く)新卒でパッケージ製造メーカーへデザイナーとして入社。

その後、転職を経つつ、3つの企業でデザイナーや広報チームの運営などを経験した後、独立。小さなデザイン事務所AMIXを立ち上げる。
業界の片隅で細々と活動中。

【著書】『#ズボラPhotoshop 知識いらずの絶品3分デザイン』(インプレス)